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「ご飯は食べたの?」
「あぁ、部屋でな」
「へぇー、会場で食べればいいのに」
「チッ、だりぃんだよいろいろ」
「親衛隊とか?」
にやけながら聞くと、チラリとこっちを見た佐古から、はぁぁ…とため息が漏れた。
「あいつらに聞いたのか」
「そう、面白すぎて笑えるんだけど」
「笑うんじゃねぇよ…こっちは困ってんだ……」
「寄るんじゃねぇ」と睨みつけても逆に「カッコいい…」と惚けられ、更に「もっとやってください!」と言われてしまう始末。
「全くもって意味がわからねぇだろうが」
(いやだからそれが面白いんだって)
思った通りの反応すぎて本当に笑える。
「作るの?」
「んなわけねぇだろ」
「だよなぁ」
いやまぁ佐古が親衛隊の子達に囲まれてるのを見るのも楽しそうだったけど、やっぱりそうですよね。はぁぁ……
「…おい、何残念がってんだよテメェは」
「あっ、バレた? いやぁ佐古の面白い構図が見れなくて残念だなぁって」
「っ、たくお前なぁ……」
「他人事だと思って…」と睨んでくる佐古にあははっと笑った。
(あーぁ、やっぱ)
佐古と話すのは、1番自然体で居られる気がする。
イロハやカズマたちと話すのも楽しいけど、佐古のはもっとこう…ゆったりと会話が進んでいくというか……そんな感じ。
自分として佐古の隣にいる事が、凄く心地いい。
(ってか、)
「この道って…」
「あぁ、そうだな」
こんなクリスマス真っ只中に森の中へ入ってくる奴なんかいないから、自分として普通に会話してるけど。
この道の先には、多分きっとーー
「ん。俺はここまでだ」
「ぇ、」
「後は真っ直ぐ行くだけだし、そこに誰がいるかももう分かんだろ」
「…クスクスッ、そうだな」
ここまで来れば、ある程度予想できる。
「佐古はこれからどうするんだ?」
「外に行く。明日休みだし別に良いだろ」
「へぇー会場には戻らないんだ、あーあー残念だなぁ」
「っ、だから戻るも何も俺は行ってねぇぞ」
「分かってるよ嘘嘘、嘘だって。
そうだ佐古、ちょっと屈んで?」
「……?」
少しだけ佐古が屈んでくれる。
その頭に、袋から取り出したものを思いっきり被せた。
「ぅわっ、てめ、何だっ」
「クスクスッ、取ってみなよ」
佐古が頭から取ったもの。
それは、手編み赤いニット帽だった。
(その毛糸の色を見つけた時から、佐古には帽子って決めてたんだよな)
「メリークリスマス、佐古。
俺さ、その色の髪のお前も好きだったよ」
別に使わなくてもいいし仕舞い込んでも全然いいからさ。
物入れの中からある日ひょっとこりそれが出てきた時、「あぁ、そう言えばこんな事があったなぁ」って少しでも俺たちのこと思い出してくれると…嬉しいな。
目を見開いた佐古が、クリャリと可笑しそうに笑った。
「そうかよ、ありがとうな」
「うん」
「おら、手ぇ出せ」
コロリと落ちてきた、小さくて可愛らしい箱。
「メリークリスマス、アキ。
じゃあ、俺は行く」
「ぁ、ありがとう!風邪ひかないようにな!!」
離れて行く背中がひらりと一度だけ手を振ってくれて
ニット帽を被った。
ガサリ…ガサリと凍っている草を踏みしめながら、目的の場所まで歩いて行く。
(もう、大体分かってる)
ってかそうじゃなかったら逆にびっくりする。
はやる気持ちに逆らえなくて、ダッと一気に走り抜けてその場所まで行くとーー
「っ! わぁ……!!」
そこには、これまで学園で見てきたモミの木とは比べ物にならないくらい大きなモミの木が立っていて。
キラリキラリと一斉に光り輝いて、いつもの噴水を照らしていた。
(す、ごい…綺麗………)
綺麗すぎて、言葉が出ない。
「クククッ、喜んでくれたか?」
「レイヤ……」
噴水の縁に座ってたレイヤが、ゆっくりと近づいて来た。
「メリークリスマス、アキ」
「っ、はははっ。メリークリスマス、レイヤ。
凄いねこれ…ちょっと大きすぎなんじゃない?」
ニヤリと面白そうに笑われて苦笑する。
「良いんだよこれくらいで。
実質お前初めてのクリスマスだしな。ツリーも大きいの見たことねぇって言ってたし。学園に植えられてるあのサイズで満足されちゃ困るんだよ」
「クスッ、何それ負けず嫌い?」
「ちげぇって」
頭に乗ってた雪を落としてくれながら、顔を覗きこまれる。
「ーーこれが、俺からお前へのプレゼントだ」
「ぇ、」
これが…この景色が……?
そう言えば、俺がハルだった時も夏休みに綺麗な花火をプレゼントしてくれたっけ。
(相変わらず、やる事でかいって)
……でも、凄く凄く嬉しい。
「近づいても、いい?」
「いくらでも」
頭に乗ってた手に優しく腕を取られて、一緒に歩いて行く。
「わぁ…飾りが全然違う」
学園のツリーとは全く違う種類の飾りがたくさん付いていて、それらが綺麗に光り輝いていた。
「本場から取り寄せたからな。海外産だ」
「かい…がい……」
凄すぎ、まじか。
様々な色がキラリと光りを灯して、沢山の飾りがそれを反射させてて。
(ねぇ、この飾り付けって全部レイヤがやったの?)
噴水も照らせるようにって光の配置とかも考えた?
1番上のお星様も、小さな小人も、天使の女の子も、全部全部レイヤが「これにしよう」って決めたの?
ーーまるで、あの日の花火の種類とか打ち上げる順番を考えた時のように。
話をもっと聞きたくて「ねぇ、レイヤ」と言おうと隣を見ると、その横顔は穏やかに笑いながらツリーを見上げていた。
その顔を、キラキラ光るイルミネーションが花火の時のように…明るく映していて……
(あぁ、今)
「ーーねぇ、レイヤ」
「? 何だ?」
「キスして」
今、この瞬間
どうしようもなく…貴方とキスがしたい。
(あの花火の時も、そうだった)
花火に照られた横顔があまりにも穏やかで、優しくて……
それくらい大切にハルの事を思ってくれているレイヤに、俺は恋をしたんだ。
今も、同じ。
同じだけど、ちょっと違う。
ツリーを見上げてるレイヤの顔は相変わらず穏やかで、優しくてカッコいい。
ーーそんなレイヤは、俺の事を想っている。
俺の事を考えながら、これを準備してくれていて。
それが、言葉にならないくらい…嬉しい。
横顔を見た瞬間、それらが溢れ出してぎゅぅぅっと胸がいっぱいになって…泣きそうになってしまって……
キュゥッとレイヤの服を掴み、必死に縋る。
「ね、レイヤ……っ」
お願い。
今じゃなきゃ、駄目なんです。
見上げた先、レイヤはビックリしたように目を見開いていて
それからフッと優しく微笑んだ。
「ーーあぁ、いいぜ」
温かくて大きな手に、俺の両頬が包まれて
ふわりと、優しい口付けが上から降ってくる。
それは本当に優しくて、大好きな大好きな温度で。
「……っ、ふ」
幸せすぎて、ポロリと涙がこぼれ落ちたーー
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