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sideアキ: 空港にて 1

ザワザワといろんな国の言葉が行き交う場所。 大きなスーツケースをゴロゴロして楽しそうに笑っている家族や、忙しそうにコートをはためかせながら時計を見て歩いている人。 そんな、それぞれが思い思いにこの一瞬を過ごしている空港の人気のない一角に、俺たちはいた。 「本当に行くんだな、佐古」 「おう。元々この予定だったしな」 〝佐古が家族と和解した暁には、仕事の拠点を日本でなく本社のあるイギリスに戻す〟 これは、元々佐古の父親…T・Richardsonの社長であるPadrick・T氏が決めていた事らしい。 Padrick・T氏は佐古が何年も家族の元に帰って来なかったのにも関わらず「私の後継は息子であるヒデトだけだ」と会社の者たちに言い続けていたようで。 「だから、しょうがねぇから会社の事とか仕事の事学びに行くんだよ」と話す佐古は、お父さんに呆れた風に見えたけど嬉しそうだった。 これから、海外の高校に通いながら本社で勉強したりお父さんと一緒に各国の店舗を見て回ったりするそう。 (佐古…完全に遠くの人になっちゃうんだな……) 嬉しいけど、やっぱりすごく寂しい。 「佐古くん…っ」 いつものメンバーで見送りにきてて、イロハとタイラは既に涙ぐんでいて佐古が呆れながら溜め息を吐いた。 「お前らな……別に今生の別れじゃねぇんだからそんな泣くな。日本にだってこれからまた帰ってくる」 「ぅ、で、でもぉ…」 「はぁぁ……ったく…あのなぁ……」 「おにぃさまっ?」 佐古の背中からヒョコッと顔を見せる、小さな可愛らしい女の子。 「おにぃさま、だぁれ?」 「ん、そうだな………〝俺のダチ〟だ」 「だち……おともだち?」 「あぁ」 「わぁっ!」と目を光らせながら出て来たのは、綺麗な瞳と髪色のお人形みたいな子で。 「おにぃさまのおともだちなの!?」 「う、うんっ、そうだよ」 「わたしもおともだちになりたい!」 「キャー!」と両手を広げながら近づいて来るのを、イロハがしゃがんで受け止めた。 「ぇ、待って、おにぃさまって」 「佐古の妹か……?」 「あぁ、そうだ。可愛いだろ」 驚いてる俺たちにニヤッと面白そうに佐古が笑いかける、けどちょっと待って?? 兄妹がいるなんて話、一度も聞いたことないけど!? うっそ、しかもめちゃくちゃ可愛い。 流石はハリウッドスターの血を引いてるだけあって、鼻筋とか目元口元が本当に整ってる。 まだ3歳?4歳?くらいなのにもう美人になるっていうのが分かって…え、可愛すぎない?ずるい……! そして兄って呼ばれて嬉しそうにしてる佐古も可愛すぎんだよ、まじ。 何だその顔は、お前絶対シスコンなるだろ。 いや、流石にこんだけ年離れてたら分かるけどさ、でもその顔…お前本当に幸せそうだな。 (〝俺のダチ〟か) 佐古の口からその言葉が出たことにも、嬉しくなってしょうがない。 「ぁ、うぅ……」 妹さんと皆んながわいわい騒いでいると、消え入りそうな小さな声。 見ると、佐古のスーツをキュッと持ちながら隠れるようにしてこちらを見つめる、これまた可愛らしい影があった。 「もう1人いるねアキ」 「そうだな。佐古、弟?」 「あぁ。こっちは人見知りなんだ」 妹より体が小さい男の子。お姉さんが元気な分、弟は内気なのだろうか。 ハルと一緒に、微笑みながらその子の近くにしゃがんだ。 「こんにちはっ。出ておいでよ」 「大丈夫。何もしないよ?」 「っ、ぅ……」 「ほら、大丈夫だ。挨拶してみろ」 背中を押してあげるように、佐古が一歩前に出させる。 (う、わぁ…!) 何なの本当、可愛すぎない? お姉さんと同じ髪色と同じ眼の色、将来絶対お父さん似のイケメンになるだろうなっていうのがひと目で分かる顔つき。 大きな目を潤ませながら何とか一歩を踏み出したその子を、抱きしめたい衝動に駆られながら2人でなんとか我慢する。 「ぁ、ぁの……」 「「? なぁに?」」 「こ、んにちわぁ………っ」 「「っ!」」 無理、無理本当に無理。 (か、かわっ、かわっ!!) キュゥゥッと鳴る心臓を抑えてハルと顔を見合わせる。 「いや、ちげぇだろお前ら。見合わせんな」 ガシッと頭上にレイヤの手が乗った。 「折角挨拶頑張ってんじゃねぇか。返してやれよ」 「「はっ!」」 (そうだった!!) 慌ててその子を見ると、ふるふる震えながら俺たちを見ていて。 「こんにちは。ちゃんと挨拶できたねぇ、えらいっ」 「こんにちは。すごいね!かっこいいっ」 「!! ほんと……?かっこ、いい…?」 「「うん、もちろん!」」 「わぁ…っ!」 嬉しい!と言うようにその子がほわぁっと微笑んだ。 あぁぁくっそ! おい佐古!何だこの天使は!!ずるくないか本当に!? 「……お前らな、2人して俺を睨むな」 「「だって双子だし」」 「言っとくけど渡さねぇぞ」 「ちょっとくらい良くない佐古くん?」 「妹も弟も可愛すぎだろ、これはずるい」 「いや、ずるいもクソもねぇだろ」 「「ある!!」」 「…はぁぁぁ……何だこいつらは」 「ハハハッ、楽しそうだねぇ」 スイッと現れたのは、Padrick・T氏。 「ヒデト、この子達を連れて母さんと一緒に荷物の最終確認をしておいで」 「分かった」 イロハたちと遊んでた妹を呼んで、弟の手を引きながら後ろで会釈してる女性の元に歩いて行った。 (あれが、佐古のお母さんか) 黒髪が似合う綺麗な方。 佐古によく似た面影を持っていて、家族なんだなってすぐに分かる。 「君が、小鳥遊 アキくんかな?」 「ぁ、は、はいっ」 名前を呼ばれ、慌てて立ち上がる。 近くで見るハリウッドスターはやっぱり纏っているオーラが違くて、一気に緊張して震えてしまうのを何とか耐えた。 「この場にいる皆んなに感謝しているが、先ずは君だ。 ーー本当に、ありがとう」 整った綺麗な顔が、微笑みながらスッと目を閉じて 静かに頭を下げた。

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