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sideアキ: 入寮日、未来へ
「お、お邪魔します……」
「違うでしょアキ、ただいまだよ」
「ーーっ、た、ただいま!」
夜遅くの、寮の部屋。
生徒たちに怪しまれないようさっき学園に着いて、部屋に入った。
いよいよ明日から学校が始まる。
(朝は、レイヤが迎えに来てくれるんだよね)
後、先輩とハルも一緒に居てくれる。
イロハたちとは念のため別々に登校して、教室で落ち合うことになっていた。
「わぁ……っ!」
食器棚を開けると、桜が付いてるピンク色の食器の隣に紅葉が付いているオレンジ色の食器。
「ふふふ。佐古くんが買ってきたんだよ、それ」
「そう、だったんだ…」
(空港で言ってたのは、この事だったのか)
チューリップが付いた赤色の食器を持って行ってたのを思い出しながら、自分のを手に取る。
ハルと佐古と同じシリーズの食器、2人とおそろいだ。
「……クスッ。ありがと、佐古」
〝ここはお前の居場所だ〟と声が聞こえてくるような気がして、食器をぎゅっと抱きしめた。
「ねぇアキ。僕の部屋って本当にこっちでいいの?」
「うん、勿論」
「でも、元々はアキが使ってた部屋だし…」
「俺は佐古のだった方を使うから、大丈夫」
佐古がいなくなった為、あいつがいた場所をまるっと貰う形になった。
寮の部屋も教室の机も全部、佐古が使ってたものをそのまま俺が使う。
(なんか、変な感じだな)
半年間この部屋で佐古と一緒に過ごしていたのに、もう此処に佐古はいなくて、俺もハルではなくなって……
楽しかった日々や大変だった日々の思い出が一気に蘇り、思わず目を閉じた。
「………アキ」
「ん?」
「今日、本当に1人で寝れる?」
「うん、平気だよ」
レイヤも、さっき玄関で「1人で大丈夫か?」と聞いてくれた。
(でも、大丈夫)
今日は何だか少し、1人で居たい気分。
「ん、そっか。じゃあ僕はもう寝るね」
「うんっ、俺も寝る」
「おやすみアキ。また明日ねっ」
「おやすみハル。また明日っ」
ドアの前で手を振りあって、互いにガチャッとドアノブを回した。
ベッドに潜り込んで、スゥッと大きく深呼吸する。
明日から、学校。
まさか、この学園に俺も通えるなんて思わなかった。
それも、ハルと一緒に。
(寮も同室でクラスも一緒なんて、嬉しすぎる……!)
クラス分けのテストは事前に受けて、梅谷先生が「お前もA組行きだ」と教えてくれた。
本当、夢みたいな出来事。
半年前…というか、今までこんな未来が来るなんて考えてもみなかった。
俺はずっとあの屋敷で生きていくのだと…
ハルと離れ離れになって、ハルはずっと遠くに羽ばたいていくのだと思ってた。
(……母さん)
正直、父さんや母さんともどうなるかは分からない。
でも…願わくばいつか、そう遠くない未来で、
(みんなで、笑い合えたらいいなぁ)
今はバラバラだけど、いつかきっと。
ーー本当の家族に…なりたい。
『アキくん。きつくなったらいつでも此処に戻っておいで』
『そうよ、無理して通う必要は無いわっ。何かあったらハルくんと一緒に戻ってらっしゃい!』
俺とハルを暖かく見送ってくれた、龍ヶ崎家のみなさん。
本当に、優しくて暖かい人たち。
もう暫くはお世話になりそうだな。
いつか、俺たちが大人になった時ちゃんとお礼がしたい。
(……レイヤ)
一度は手を離したのに、それをまた手繰り寄せてくれて。
必死に互いに手を繋ぎあって、今があって。
あぁ、本当に
「~~っ、奇跡かなっ」
なんて不思議で、幸せな運命なんだろう?
明日から始まる学校は、正直不安しかない。
よく知ってるけど初めましてのクラスメイトに、もう一度お世話になる先生たちに……
また仲良くできるかな? 変に怪しまれないかな?
分からない。 けれどーー
(みんなが一緒なら、きっと大丈夫だ)
近くに知ってる体温があるなら、きっと楽しい日々が待っているはず。
だから、だからーーーー
これから始まるキラキラした日々に、沢山のわくわくと少しの不安や緊張を感じながら
ふふふと笑って、目を閉じた。
[未来へ編]-end-
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