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『ねぇ、イロハ。
俺と一緒に、ここから出ないか?』
『……ぇ?』
バサリと目の前に広げたもの。
それは、ここから少し離れた学校のパンフレットだった。
『全寮制の中高一貫校なんだ。
学力は必要だけど、俺とイロハなら絶対行ける。家柄も申し分ないと思う』
ずっと…ずっと調べてた。
この場所からイロハを連れ出したい。
誰も何も知らない所で、心から笑えるように。
イロハが、イロハでいられるように。
『ここから、外に行くの?』
『うん、そう』
『お外…怖いよぉ……っ』
また、目くじら立てられるかもしれない。
また、『自分はおかしい』と言われるかもしれない。
また、服を取られて髪をぐちゃぐちゃにされるかもしれない。
またーー
ポスッ
『大丈夫』
『カ、ズマ……』
下を向いてしまった頭を、優しく撫でた。
イロハの考えてることが、手に取るようにわかる。
そうだよな。
俺がイロハでも…きっと怖い。
………でも、
『ね、イロハ。
一回自分を見つめ直してみよう?』
『…ぇ?』
『自分って何なのか…どんな子なのか。
自分でも自分のこと全部知るのは難しいけど、でも…きっとイロハには、それが今1番必要なんじゃないのかな?』
『自分を…知る……』
呟く声に、強く頷いた。
調べてみたけど、戸籍ではイロハは男として登録されていた。
だから、恐らくイロハは男だ。
幼い頃からの育て方によって、その道から外れてしまっただけ。
丸雛の社長の件でこうなったのだろうか?
自分の両親から聞いた、丸雛の社長の話。歴代ずっと丸雛は女の人を社長にしているから、イロハのお母さんは自分の子を女の子にしたかったのではないか?というもの。
(そんなの…許せない……っ、)
子どもは、道具じゃない。
自分のために子どもの人生を捻じ曲げてもいいなんて、おかしすぎる。
やっぱり、早くここから出たほうがいい。
じゃなきゃイロハは一生下を向いたままだ。
幸いにもこの学園は男子校だ。
だから、イロハでも入ることができる。
幼稚園でも小学校でもずっと女の子と遊んで来たイロハ。男の子は、俺以外とはあまり触れ合わなかった。
でも、自分が男であると自覚しつつある今…男子校に入ることで何かが変わるかもしれない。
かなりの荒治療だけど、ここでずっとうずくまっているよりはマシだと思う。
だからーー
『俺も一緒に行くから、な? ずっと隣にいる』
どんな事があっても、俺が守ってみせる。
学園の奴らがイロハに手を出したり、何か言葉を吐いて傷付けたり、何が起こるかわからないけど…でも、それら全てから絶対に守る。
『…ほん、と?
カズマ、ずっと一緒にいてくれる……?』
『うん。ずっと一緒だ。絶対離れない』
『………それなら、行ってみる…っ』
カタカタ震えながら、それでも一歩踏み出したイロハをぎゅぅっと抱きしめた。
それから、2人で一緒にそれぞれの家に許可を貰いに行った。
イロハのお母さんは『カズマくんと一緒なら安心ね!』と思ったより簡単にOKをくれて。
俺の両親は、俺の意図を知ってから知らずか『心根を強く持って頑張りなさい』『一度決めたことを折ってはなりませんよ』と了承してくれた。
「そして俺たちは、猛勉強してこの学園に入ったんだ」
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