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『ね、制服変じゃない…?』 『大丈夫』 『ちゃんと、男の子に見えるかなぁ……っ』 『あぁ。見えるよ』 腰まであった癖っ毛を短く切った頭を撫でると、安心したように笑った。 『ちゃんと友だちできるかなわたし……ぁ、ぼくっ!』 『クスクス、出来るから安心しろ。俺もいる』 『うん、ありがと…』 幸い学園には、イロハのように可愛らしい感じの男子がちらほらいた。 だから、イロハもそれに上手く溶け込めて何の違和感もなく学園に馴染めた。 「初めは俺の背中に隠れてたのに、だんだん自分から前に出るようになって… この学園に連れてきて良かったと、心から思った」 自分の中に自信が芽生えてきたのか性格は日に日に明るくなっていき、一人称は「ぼく」から「おれ」になって、「わたし」が出る事は少なくなっていった。 …けど、自分のことを話す時はどうしても一人称がブレてしまう。 「基本的にあいつは自分の話をしないから、俺の前でしか一人称のブレは起きなかった。多分、心から信頼できる奴の前じゃないと出てこないんじゃないかなと思うんだ。 だから、ハルたちの前でそれが出たって事はそれだけで2人のことを信頼してるんだ。佐古の事も」 「そ、かぁ……」 「…ね、カズマはいつからイロハのことが好きなの?」 「そうだな……知らないうちに。 気づいたら、だな」 幼い頃から一緒にいるから、とかじゃなくて。 この学園の特色云々にやられて、とかじゃなくて。 気づいたら、イロハは誰よりも大切な人になっていた。 「兄弟愛かと思ったんだが、違うと確信した。 俺はこの先の人生をずっとイロハの隣で過ごしたいと思うし、イロハの笑顔を守っていきたいと思った」 『なぁ、イロハ』 『ん? 何カズマ?』 『好きだよ』 『ーーぇ、』 この学園での〝好き〟はそういう意味だと、俺もイロハも学んだ。 だから、それはシンプルに一言で伝わって。 固まったまま動かなくなってしまったのに苦笑して、頬を撫でた。 『ぁ、ぇと…その……っ、』 『いきなりでごめんな。何か、今言いたくなった』 『ぃ、一体いつから…っ、ごめ、おれ全然そんな目で見てなくて、だからーー』 『良いんだそれで。焦らせて悪い。こうなることは分かってたから、別に罪悪感は感じなくていい。 …もしイロハが嫌じゃなかったら、これからも変わらず隣に居させてほしいんだが……』 『っ、そんなの勿論!』 顔を真っ赤にし慌てるのが、可愛くて可愛くて。 嫌悪感を抱いてない様子にホッとしながら、『ありがとう』と話した。 「この先もし上手くいって恋人同士になったとしても、性格的にも体格差的にも俺がイロハを抱く事になると思う。 だが、あいつは自分が女として見られる事に恐怖を覚えてる。だから、別にこの想いは実らなくてもいい。イロハの恋愛対象が女性であるのは普通のことだし、笑って祝福できる自信がある。 俺もゲイじゃない。ただ、男だとか女だとか…そういう性別関係なくイロハが好きなだけだ」 そして、そんなイロハをいつまでも隣で支えたいと思う。 「うん、そっかぁ……」 「カズマは本当の意味でイロハを愛してるんだね。なんか凄い伝わってきた。 というかカズマってナイトみたいだよねってアキと前話してたんだけど、やっぱり本当にナイトだったんだね」 「それな。カズマカッコいい」 「ね。かっこいいね」 「やめてくれ……でも本当に、心からそう思ってるんだ。 俺は、今までずっと丸雛の家が悪いと思ってた…今回丸雛の月森の話を聞いて、イロハの母さんの事を知った。 でも…たとえそれでも、俺は許せないと思ってる」 イロハがこうなってしまったのは、イロハの母が意識的に女に育て上げ丸雛の社長の座に就かせる為だと思ってた。 でも実際は、イロハの母には〝女〟という概念がなくなっていて、無意識に自分の子どもを女として育てていた。 「うん、そうだね」 「それは俺も同意見。丸雛の為にイロハを切り捨てたのは、どうしても許せない」 「イロハのお母さんにとっての〝女の子〟っていうのは、きっと男でも女でもない〝何か〟なんだと思うよ」 「うん。んー難しいな…イロハはどうやってお母さんと折り合い付けようとしてるんだろう? 無意識な人に気づかせるのは、かなり難しいと思うけど……」 「そうだな…」 しかも、イロハは月森に〝ケンカ〟と言っていた。 (あいつにもプライドがある。 自分の母との喧嘩に俺たちが割って入ってもいいのか……) 多分、ダメだと思う。 現にイロハは俺やハルたちに助けを求めてないし、「俺の家に行く」という月森の誘いにも乗らなかった。 ーーだが、 「悪いが、俺にもプライドがある」 もう1週間も大切な人を1人にしてしまってる。 いい加減に返してもらいたい。 しかも閉じ込めてるだと…? たまったもんじゃない。 今、この夜をどんな思いで過ごしているか……考えるだけで胸がキリキリする。 (早く…) 早く、駆けつけたい。 1人で頑張ってるあいつの隣に、居たい。 「……うん。よしっ!」 「じゃ、次はこれからの話するか。取り敢えずイロハの顔が見たいよな」 「そう、それだよ。心配すぎてもう頭禿げそう僕。カズマもそうでしょ? ーーこれから、どう動こっか?」 繋がれたままの両手に、キュッと力が入る。 (そうだな……) 2人が話を聞いてくれて、大分気持ちが落ち着いた。 俺の想いは、ずっと変わってないじゃないか。 何を心乱してたんだ。 本当、俺らしくない。 『強く、強くありなさい。カズマ』 (あぁ、そうだな母さん) 俺は〝矢野元〟だ。 矢野元は、どんな事が起ころうとも常に冷静であれと習ってきたじゃないか。 「会長や月森先輩とも話し合って、出来れば明日か明後日には隣を訪ねたい」 「「了解」」 それから、整理できた頭をフル回転させて 夜通し3人でこれからについて話し合ったーー

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