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シィ……ンと、場が静まり返る。 みんな、ただじっとお母さんを見つめていて。 (っ、どう…だろうか……) 性別関係なしに〝ならない〟と決めた。 お母さんがずっと両親に言われてきたことを、真っ向から拒否した。 お母さんは、多分ぼくに跡を継いで欲しかった筈。 その為に女の子を生んだのだと思ってる筈。 それなのに、受け止めてくれるかな……? ハルやアキのお母さんみたいに、壊れてしまったらどうしよう… お母さんの跡を継げる人なんて、現時点では丸雛にいない。 そんな頭を潰してしまったら、丸雛はーー 「イロハ」 「っ、はい」 「本当に、社長へなる気は無いの?」 「ありま、せん……っ」 「…………そう」 「…っ、ぁ、ぁの!お母さん、おれは」 「わかったわ」 「ーーぇ、」 呆然と見た先。 俯いたままだったお母さんが、「仕方ないわね」という様に悲しげな表情をしたまま、笑っていた。 「なりたくない人が社長になっても、会社が腐るだけだわ。社長である私がそれを1番知ってる。だから、貴方にその気がないのなら…いいわ」 「え……いい、の?」 「本当は嫌よ!だって私の後継人よ? 絶対イロハだけだと思ってたわ。本当にしっかり丸雛の全てを叩き込もうとしていたの。 でも、イロハが他の選択をするならば……丸雛として別の道を行きたいと言うのならば、それは私が引くべきね」 「なんで…」 「だって、私はイロハの〝母親〟だから」 「ーーっ、」 ふふふと微笑みながら、一歩一歩おれの方に歩いてくる。 「親というのは、子どもの背中を押すものなのよイロハ? しかも、貴方は丸雛としての夢を持ってる。社長としても応援しない筈が無いじゃない」 「っ、おかあ…さ……」 「あぁ本当、まったく」 ふわり 「いつの間にこんなに大きく…逞しくなってしまったのかしらね、うちの女の子は」 「ーーっ、」 懐かしい、優しい体温。 お日様の匂いがする…身体。 ぎゅぅっと抱きしめられて、緊張してた体がじんわり溶けていく。 「洋服もお土産も、どうしてもっと早く言ってくれなかったの? 男子校ってこともあるかもと思ってたけど、まさか本当に好みが変わっていたなんて分からなかったじゃない」 「ご、ごめんなさ」 「うーん、でもイロハはワンピースもスカートも似合ってたから寂しいわね……時々は着てくれる?」 「もちろんっ!」 「ふふ、ならいいわ。ボーイッシュなのも全然ありね、可愛いしかっこいいし。 あぁそれと、近いうちにおばあちゃんとおじいちゃん…私の両親に会いに行きましょう」 「ぇ?」 「〝イロハは丸雛の社長を継ぎません〟ってちゃんと報告しなきゃ。私も幼い頃から言われてきたことを破ってしまうから怒られてしまうだろうけれど…でもいいの。 ーー両親よりも、イロハの方が大事だから」 「ーーーーっ、おかあ…さ……!」 ガバッ!と抱きしめてくれてる体にしがみついた。 「っ、うぇぇ……お、かあさ…」 「あらあら、まったくもう成長したイロハは何処に行ったのかしら?」 「〜〜っ、」 (そうだ。ぼくは、お母さんと話をしてるんだ) ガチガチに緊張してて、頭では理解してるつもりだったけど分かってなかった。 お母さんはいつもおれのことを見てて、どんな時でも1番にわたしのことを考えてくれてるのに。 性別なんて、どうだって良かったんだ。 ぼくは、なんてちっぽけな事で悩んでたんだろう? 今こうして抱きしめてくれるお母さんが、おれのことを女の子だと思っていても ーーぼくのことをちゃんと見ていてくれるなら、もうなんだって いい。 ひとしきり抱きしめあってから、ゆっくり体を離す。 「じゃあイロハ。 貴方は、あの学園に残りたいの?」

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