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sideイロハ: ただいまとおかえりと、それから…… 1

ピッ ガチャッ そんなに時間経ってない筈なのに久しぶりに聞いたような音がして、鍵が開く。 ドアを開けると、ふわっと懐かしい匂いがぼくらの部屋の中からして。 (ぁ………) 「おかえり、イロハ」 「っ、ただいま、カズマ!!」 早く入れと背中を押すカズマに、思いっきり抱きついた。 「落ち着いたか? ほら」 「ぅ…グスッ、ぁりがと……」 さ、早速泣いちゃった… 昨日からどんだけ泣いちゃってるんだろうおれ…もう涙腺おかしくなってるんじゃないかな? 目の前に置いてくれたお茶を飲んで、ホッと息を吐く。 「良かったな、帰ってこれて」 「うん、良かった」 「安心したな」 「ん、安心した…」 隣からゆっくり頭を撫でられて、気持ちいい。 昨日は凄く楽しかった。 会長も月森先輩もハルとアキを貸してくれて、4人でぼくの部屋に泊まっていっぱい話をして。 今朝、一度矢野元の家に挨拶してから学園に戻った。 幸い今日は休み。 明日からまた学校だ。 「お母さんともやっと和解できたな」 「へへっ、わたしが勝手に意地はってただけだったね」 本当、難しく考えすぎてた。 帰りがけぎゅぅっと抱きしめてくれ、「またいつでも帰って来なさい? その時は私も出張から戻れるようにするから」と言ってくれた。 やっぱり、家族っていいなぁ…って思って…… 「丸雛の月森も、大丈夫だといいな」 「そう…だね……」 矢野元の家を訪ねた時、既にスズちゃんはいなくなってた。 『スズは本家へ戻りました。これからどうするかは当主がお決めになります。今一度お待ちください』 ぺこりと頭を下げてくれた矢野元の月森さん。 これからお母さんの処にも、説明しに行くのらしい。 一応月森先輩と矢野元の月森さんにはスズちゃんの事お願いしたけど…やはり、当主には敵わないらしかった。 難しいながらも『なんとか言ってみます』と苦い顔をした2人を思い出す。 (スズちゃんだけが犠牲になるなんて…やだ……っ) スズちゃんだって、きっと苦しかった。 お母さんの事と丸雛の事…それからぼくの事で、いっぱいいっぱい悩んでくれた筈。 だから、今回自ら行動してくれたんだ。 ねぇ、スズちゃん。 丸雛にはスズちゃんが必要だよ。 お母さんも、スズちゃんの事大好きなんだ。 だから、どうか帰ってきますように…… 「それと…この一人称は、治らないなぁ……」 無意識に出て「あ」と思ってしまう。 気づく時もあれば、気づかない時もある。 自分は、自分のことをなんて言いたいんだろう? わたし? ぼく? おれ? わからない…… 「それは、これからゆっくり決めていけばいいんじゃないのか?」 「っ、」 ポンっと頭に手が乗る。 「今回は頑張りすぎだ、一気に片付けようとするな。自分が一番呼びやすいように呼べばいい。バラバラでも、みんな別におかしいとは思わないよ」 もう、自分は女じゃないと意地はって〝おれ〟って使わなくても、いい。 「…おれ、〝わたし〟って言ってもおかしくない?」 「クスッ、おかしくないよ。それなら月森先輩はどうなるんだ?」 「あの人は、なんて言うかしっくりくるじゃん!寧ろ〝俺〟って言う先輩想像できないんだけど…ちょっと見てみたい」 「わかる、俺も」 目があって、2人でクスクス笑って。 (あぁ、やっぱり…カズマじゃないとダメだ) いつでもぼくのことを見てくれて。 わたしのことを助けてくれる。 「ねぇ、カズマ」 全部が終わったら、ずっとずっと言いたいことがあった。 もうずっと待たせてしまってて。 一度は断ったのに、それでもこうして一緒にいてくれて。 守って……くれて。 「ん? どうしたイロハ」 「っ、あ、のね? おれ…カ、カズマのことーー」

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