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「ぁ……の………」
「……………」
い……い、い、い
言えない…!?
あれ!? 言えないんだけど!嘘、なんで!?
たった4文字、いや2文字。
早く言たくて仕方なかったはずなのに。
いざこうやって面と向かってみると…言葉が出てこなくなって……
え、緊張してるの?
まじ? ここで?
目の前でじぃ…と見つめてくる目に、たらたら変な汗が出てくる。
「ぇ…とですね……その………」
「……………」
「ぁの…え……とぉ………」
「…………っ、ぷは」
「!! わっ」
もう無理というように吹き出され、ぐしゃぐしゃ髪を掻き回された。
「いいよ、分かってるから」
「え?」
「無理に全部片付けようとすんなって言っただろ?」
(ぁ………)
「まったくお前は」と呟きながら笑うその顔が
一瞬だけ、寂しそうに歪んだ気がしてーー
「ーーーーっ、カズマ!」
「っ……イロハ?」
離れていく両手を思いっきり掴んで、自分の膝の上に置いた。
(駄目だ)
ここで逃げたら…またカズマの優しさに甘えてしまったら、駄目だ。
カズマは今まで何回、さっきみたいな顔をしてたんだろう?
どれくらい苦しかった?
いつも自分よりぼくのことを考えてくれるカズマ。
たくさん迷惑かけて…でもそれを「迷惑じゃないよ」と優しく笑ってくれて。
その優しさに……わたしはいつまで甘えているんだ?
(ねぇカズマ。
気持ちを伝えるのって、怖いね)
中学生だったあの日も、こんな気持ちで伝えてくれたの?
そしてそれを断ったのに…一緒にいてくれたの?
「待つよ」って…言ってくれたの……?
「〜〜っ、ぁの、おれ…ぇ……!」
泣きたくもないのに、まだ言ってもないのに、涙で目の前が歪んでくる。
それを拭う為、手を振り解こうとするカズマを、力を込めて制した。
「イ、ロハ…?」
「…………っ!」
もう、待たせたくない。
これ以上…寂しい思いはさせたくない。
ーーちゃんと、言うんだ。
「カ、ズマ…カズマ、あのね? わたしっ」
「いいよ、ちゃんと分かってるから」って貴方は言うけれど。
でも、ちゃんと言葉にしないと伝わらないものがある。
お母さんとのことだってそうだった。
だから、
「お、れ……おれはっ」
丸雛 イロハは、矢野元 カズマのことが
「す……き………好き、です……っ」
ほろりと、涙がこぼれた。
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