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その4: 櫻さんと梅谷先生の話
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◯リクエスト
櫻さんと梅谷先生の話を。
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【side 櫻】
(わぁ、思ったより暗い……)
夜の校舎の見廻り。
私は寮監だから校舎の見回り当番には入っていないが、今日はシュントが当番だった為内緒で来てみた。
「ふふふふ……」
前にもこういう事をした記憶がある…確か、プール掃除の時。
あの時のシュントの驚いた顔は、凄く良かったな。
さて、今度はどうやって驚かせてあげようか……
静かな廊下をキョロキョロしながらゆっくり歩いていく。
案外暗い…もしかして寮以上に暗いのでは?
何処に…いるのだろうか……?
「ぁ………」
段々目が慣れてきて、壁に当てていた手に懐かしい感触。
この扉はーー
「生徒会、室」
古びたドアノブと、重みのある扉。
中を開けば、赤い絨毯と生徒会長の大きな机…それから……
「ふふっ、懐かしいですね」
両手でドアノブを包んで、コツンと扉におでこを当てた。
ーーもう、何年前のことだろうか?
『会長、何しているんですか?』
『あ? わかんねぇのかよ、お前のこと見てた』
『…何言ってるんです? ちゃんと仕事してください』
『んなのは後々、俺はお前のことが見ててぇんだよ』
『は??』
あの人はいつも我儘で自己中心的で、サボってばかりで。
『……お前、今日なんかあっただろ』
『っ、なにも無いですよ?』
『嘘だな。何隠してんだ? その腕は? 見せてみろ』
『え…て、ちょ、何するんですか、いっ……!』
『……ほぉ。
この痣どうした。答えろや、あぁ?』
でも、肝心なところは見逃してくれなくて。
『おい、副会長。
ーーてめぇ、その能面の下に何隠してんだ?』
気づかれたら困る処まで、入り込んできて…くれて。
……あぁ、本当に。
「ふふふ、懐かしいな」
「まったくだな」
「っ!?!?」
ビクッと肩を揺らして振り向くと、笑っている顔。
「てめぇケイスケんな処で何やってんだ? あぁ?」
「ち、ちょっと散歩に……」
「ほぉ? こんな真夜中に散歩たぁ変わった趣味だな。出会ってこのかた一度も聞いたことねぇわ」
「あははは…」
「……はぁぁぁ…ったく………
来るならちゃんと言え。危ねぇだろうが」
「すいません……」
持ってた懐中電灯で頭をコツンと小突かれて、手渡された。
「見回りはもう終わったんですか?」
「あぁ。この廊下で最後だったな」
先程私が持ってたドアノブを、片手で掴む。
「懐かしい感触だ」
「えぇ、本当に。昔を思い出しますね」
「そうだなぁ」
〝あの頃〟も、いろいろなことがたくさん起こった。
(本当、私の学生時代はこの部屋無しでは語れませんね)
今この部屋を使っているのは、龍ヶ崎くんとハルくん。
学年が上がれば、今生徒会に入りたいと頑張っている丸雛くんや矢野元くんも一員になるかもしれない。
きっと、いい生徒会になるでしょう。
だってあんなに仲のいい子たちなのだから。
それにーー
「今のあいつら見てると、何だか昔を思い出さねぇか?」
「ふふふ、私も今同じこと考えてました」
何となく…昔の私たちに似ているかもしれない。
彼らもまた、この部屋無しでは学生時代を語れないくらいに、生徒会室で思い出を作ってほしい。
そして、それをまた次の子たちへ………
「さぁて。帰りますか、櫻〝副会長〟?」
「クスッ。そうですね、梅谷〝会長〟?」
「クククッ」
ドアノブから離された手が、するりと私の手を掴む。
「そう言えば、仮眠室は未だに防音のままなんだぜ?
あの恩恵を一体どれだけの後輩が受けたんだかなぁ」
「っ、まったく貴方は……あれは元はと言えば貴方の我儘でしょうが」
「だっててめぇの声を他の奴に聞かせたく無かったんだ。いや、しょうがねぇだろ」
「あのですねぇ……大体、他の方が仕事をしている時に仮眠室を使うのがおかしいでしょう」
「へぇ? 最後の方はお前から誘ってくれてたのになぁ? ん??」
「ーーっ、そんなのものは忘れました!」
「ほら!早く帰りますよ!」と繋いでる手を引いてズンズン歩く。
後ろから楽しそうに笑ってる声が聞こえるけど、今は無視だ。
「あ、そうだケイスケ」
「? 何ですかシュンt、」
チュッ
「!?!?」
「っ、はは!あぁー帰るか。何か青春したわ」
固まってしまった私の頭をポンポン撫でながら、今度はシュントが手を引っ張ってくれる。
(……もう、本当に)
キュウっと鳴る心臓が煩くて、体もどんどん熱くなってきて。
でも、
「………っ、この!」
「ぅおっ!?」
やられっぱなしはなんだか悔しいから、大きな背中に思いきり抱きついたーー
fin.
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