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「はぁぁ………」 最悪だ…… 自分で自分が分からなくて気持ち悪りぃ。 あてもなく廊下を歩きながら、思い出して溜息を吐く。 もともと苛々する時はあった。 くっつきすぎだとか距離が近いだとか。 でも、まぁ我慢できるレベルだった。 だが今日のは駄目だった。 脱がされるだと? 馬鹿なのか?? あれは俺のだ。 あいつの素肌には、誰にも触れさせねぇ。 なのに、いとも簡単に脱がされやがって…ったく…… (まぁ…だが、) 「……兄弟だからな。あいつら」 しかも双子の。 俺には兄弟がいねぇから感覚がよくわからない。 兄弟なら、素肌見せ合って当然なのか? あんなことし合って当然……? はぁぁぁ……本当、わからねぇな。 俺は、どうすればいいんだ? 「レ、レイヤっ!」 「……?」 振り返ると、パタパタ走ってくる人影。 「レイヤっ、あの」 走ってきたのか、肩で息をしながらアキが近づいてきた ……けど、 (あぁ、何だこれは) いつもなら嬉しい筈なのに ーー今だけは、顔を見たくない。 「………っ、」 「ぁ、まっ、待って!」 グイッとブレザーの裾を引っ張られる。 「ぁの…レイヤ、その……」 「ーーなんだよ」 「っ、」 思ったより低い声が出て、ビクリと肩が震えたのが見えた。 「ハルのことは良かったのか?」 「ぅ、ん。ハルはさっき月森先輩と帰ったよ…こんな様子じゃ仕事出来ないねって……」 「……そうか」 (っ、あぁくそ、苛々する) 俺は不可抗力以外の事で仕事が遅れるのが嫌いだ。前々からそう言ってる。 なのに今回のはどうだ? (俺が出て行かなかったら、仕事が出来たかもしれねぇ) または直ぐにあいつらを止めに入れば、今日の仕事を後日に持ち越すことも無かったはず。 何で、俺はこんなになっちまったんだ……? 自分で自分がわからないなんて…そんなことーー 「ご、めんなさいっ、レイヤ!」 じぃ……っと俺を見つめていたこいつが、ガバッと頭を下げた。 「お、俺が仕事せずにハルと遊んじゃってたから…本当に、ごめんなさい。 後、服……脱がされたこと、も……」 「へぇ」 何だ、分かってんじゃねぇか。 「……頭、上げろ」 「っ……わ、」 ゆっくり…恐る恐るというように上がっていく頭をガシッと掴んで引き寄せる。 「反省したのはいいが、次からはどうすんだ?」 「も、もう誰にも服脱がされたりしない…から」 「誰にも?ハルにもか?」 「ぅんっ。気をつける、気をつけるから…… ーーもうレイヤのこと嫉妬させないようにするから、だから」 「…………は?」 (嫉妬……だと?) これは、この苛々するような腹のあたりが気持ち悪りぃようなこの感覚は ーー〝嫉妬〟…なのか……? 「っ、ククク」 「…? レイヤ……?」 どうせ今話してることも、ハルを迎えにきた月森に助言されたんだろう。 また俺は、お前にひとつ感情を教わったわけか。 成る程そうか、嫉妬か。 確かに醜いもんだな。気分は最悪だ。 だが、この変な感覚に名前が見つかって変にスッキリして。 「おいアキ」 「は、はいっ!」 「服もそうだが馬乗り、あれもやられんな。 お前の上に乗るのは俺だけだ」 「っ、へ」 「後カチューシャ。何であんなもん着けるの簡単に許した? あぁいう玩具も俺以外の前では着けんな」 どんどん どんどん 口にすれば止まらなくなる束縛の言葉。 だが、しょうがねぇ。 俺を嫉妬させたのが悪いんだ。 兄弟なんざ、双子なんざ関係ねぇ。 ーー俺は婚約者だ。 遠慮なんか、いらない。 「いいな、分かったか?」 「ぁ、えっ……と」 「返事」 「は、はい!」 びっくりしながら頷くこいつに満足して、クシャリと髪をかき混ぜた。 この先、俺はまたいろんな場面で嫉妬するんだろう。 その度に束縛して、また好きになって。 (それが愛ってやつか?) はっ、俺も人間らしくなったな。 さっきまでの俺を親父たちが見てたら大爆笑もんだ。 「帰るか、アキ」 「生徒会の仕事は…?」 「今日は無しだな。また後日」 ほら、と手を出せば直ぐに絡みついてくる細い指。 あぁ、そう言えば。 「お前、今日のこと覚えとけよ」 「え? なんで…」 「俺を嫉妬させた罰、受けてもらうからな」 「っ!?」 (ははっ、どうすっかな) 別の動物の耳を着けてやってもいいな。犬よりもっと可愛いやつ。 それと尻尾も、今度はちゃんと正しい使い方で付けてやってーー 顔を赤くしたり青くしたりするこいつを見ながら、クククと笑い来た道を引き返した。 fin.

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