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「うぅ………」
直ぐそこにはレイヤの部屋のインターホン。
押さなきゃ…いけないんだけど……
全然指が動かない、ってか乗り気じゃない。
でもハルに部屋追い出されちゃったし、何もせずに戻ったらまた色々言われるだろうし……だからちゃんと会わなきゃ。
ーーでも、一体どんな顔すれば?
「っ、」
正直、今レイヤの顔を見たくない。
手紙のこと…訊ける?
それでもし何か言われた時……ちゃんと言い返せる?
自分の意見を、言える?
意見って…俺、何が言いたいんだろう。
感情がぐるぐるしててまだ答えが出てない。
そんな状態で、会ってもいいの……?
どうしよう、どうしよう、どうしよーー
ガチャッ
「……ん? アキ?」
「え………?」
突然ドアが開いて、部屋着姿のレイヤが出てきた。
「お前何やってんだ?」
「ぁ、えっと……レ、レイヤこそどうしたのっ?」
「ちょっと副会長に用事。書類届けにと思ったんだが……ま、急ぎじゃないから後でいい。
ーーそれより、」
グイッ!
「ゎ、っ」
「今はお前だ」
腕を取られ、部屋の中に思いっきり引っ張られた。
「……で? どうした、アキ」
リビングまで通されて、ソファーに座るレイヤと向かい合うようにして膝の上に座らされる。
でも直接顔が見れなくて…下を向いてしまって。
「大体いつからいたんだ。さっさとインターホン押すなりドア叩くなりしろ」
「…………」
「はぁぁ…ったく、だんまりか……」
明らかに困ってる。
ため息まで吐かれてしまった。
それなのに抱きしめてくれる体に、胸がぎゅっとなって何でか涙が出そうになってしまって。
「……っ、ぁ、の」
「ん? なんだ」
頭の中は、まだぐちゃぐちゃ。
でもレイヤに言いたいことはある、聞きたいことだって。
(えっと、えぇっと)
なんて言えばいいかわからない…でも、でもーー
「レイヤ…は、俺のこと好き……?」
「………は?」
脳で考えを整える前に、言葉が先に漏れた。
途端、ガバッと体が離される。
「何言ってんだお前。俺がいつアキのこと嫌いになった?」
「っ、そ、だけど……でも、手紙を!」
「手紙……? あぁ今日貰ったやつか? お前見てたのか」
「っ、」
見てたのかってなんだよ見てたのかって!
俺にとっては結構重要だったんだぞ!? お前にとっては重要じゃないのか!?
……もしかして今日のはたまたま俺が目撃しただけで、実は日常茶飯事だったり…?
あぁ、なんか腹立って来た……
こんなに悩んでんのに、なんだそれは。
「あー成る程な。ククッ、分かった」
「……なにが」
「お前が何にそんな悩んでんのか」
「??」
視線を上げると、さっきまで心配そうだったのに今度は面白そうに笑って俺を見てた。
「まず説明させろ。確かに俺は今日告白された。手紙も貰った。だが答えはNOだぞ」
「っ、いつも…告白されてるの?」
「最近はそこまでねぇな。お前が現れてからはめっきり減った。だが、今回みたいに記念とか思い出とか…次に行くためのけじめ?みたいなのでワザと振られにくる奴はいるな」
「手紙は?」
振る前提なら、貰わなければいい。
それなのに…どうして受け取ってるの?
「あぁ、それはお前が原因だな」
「へ………」
俺……?
「お前に教えて貰ったんだぜ?
告白する時の緊張も、それまでの努力も、勇気も」
そう言えば、レイヤの方が先に好きになってくれてたんだっけ?
それからピアノも教えてくれて花火とかもいろいろ準備してくれて。
先に告白してくれたのに、結局返事は後夜祭だったけど。
「身を以て実感したんだ。想いが通じ合うことはこんなにも凄ぇんなんだなって思った。
それからは、告白される時はすっぽかさずにちゃんと最後まで聞いてるし、手紙だって受け取ってんぞ」
どれだけの努力や勇気を振り絞って今ここに立ってるのか、用意してくれたのかを…レイヤは知ってる。
だから、ちゃんと最後まで話を聞いて手紙を貰ってから、断りの返事をするようにしている。
(な、るほど……)
理屈はわかった。
ーーでも、それとこれとは…別。
「い、ゃだ……っ」
「ん?」
「手紙とか貰うの、嫌………」
告白を最後まで聞くのは、100歩譲っていいとする。
でも手紙までを受け取るのは……嫌。
だって、レイヤは俺のだもん。
俺の、俺の……
「俺の、婚約者…だもん……っ」
「ーーっ、クッ、はははは!!
あぁ、いいなそれ」
「……?」
ニヤリと笑った顔が、ずいっと近づいてきた。
「もっと縛っていいぜアキ。俺はお前のだ。俺はお前にしか縛られねぇよ。 お前のその感情の名を教えてやろうか。
それは、〝嫉妬〟だ」
「嫉妬……?」
それって、この前のレイヤの?
あの時のレイヤも、ハルにこんな感情抱いてたの…?
「嫉妬という名のヤキモチだな。俺の告白現場を見て、手紙まで貰われて妬いたんだろ?」
「……そ、か…そうなんだ、俺……」
嫉妬…してたんだ。
自覚してから、驚くほど自分の中の感情が整理されていく。
「俺が手紙を貰うの嫌か?」
「…ん、嫌……」
「告白されるのは?」
「嫌…だけど、でもそれは許す……」
気持ち分からなくもない。
確かに次へのけじめとか思い出作りとかで言う人は、いるかもしれない。
その気持ちをちゃんとお断りしてるなら、いいと思う。
でも、手紙とかそういう形のあるものは…残るから嫌だ。
我儘かな……俺。
手紙が欲しいなら、俺がいくらでも書くから
だから…お願いだから、どうか受け取らないで……?
(恋って、欲張りになるもんなんだな)
まさか、自分がレイヤを縛るなんてこと考えもしなかった。
「はっ、手紙だけでいいのか。んだよつまんねぇな……もっと束縛しても良いんだぜ? なんなら全校生徒の前で言ってやるか?
龍ヶ崎レイヤは俺の婚約者だから、誰にもーー」
「わぁぁぁ!!」
慌てて両手で口塞ぐと、面白そうに肩を揺らされた。
「ま、いいか。 さぁて……」
「? ぅわっ!」
体を横抱きにされてグイッと持ち上げられる。
「嫉妬されるってのは気分がいいなぁ、ククッ。
なぁアキ、今日はもう帰らねぇよな?」
「………え?」
「俺覚えとけっつったよな?
前回俺に嫉妬させた時」
あ、待って。
この流れは、やばいやつ。
「届いたんだよなぁ、注文してた動物の耳と尻尾が」
「へ、へぇーそうなんだ……っ」
「付けるよなぁ? 勿論」
「や、俺はその…遠慮というか……」
「あぁ…?」
あぁーですよね!嘘でしょ、まじでやんの?
ワタワタ暴れても、時すでに遅くレイヤの足はベッドに向かってて。
そのまま、嫉妬と一緒に美味しく戴かれてしまいましたとさ。
(おはよっ、レイヤ。昨日は楽しかった?)
(ああ?なんだハル気づいてやがったのか?)
(んーん僕は何も聞いてない。でも昨日アキ行かせたのは正解だったかなって。
ふふっ、これで前回のはチャラね?)
(けっ)
fin.
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