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案内されたのは学校の食堂。
今日は休みだから誰もいない筈なのに、何故だか扉の向こうからはカチャカチャ音がしてる。
………? なんだ?
なんとなくだけど、前にもこういう事があったような気がする…なんだったっけ……?
あぁ、そうだ。
あれは確かハルとしていた頃、レイヤと正式に恋人同士になった時にーー
「開けますね」
ガチャリと音を立てて、ゆっくり開けられたその先には
パンッ!! パンッ!!
「「「「ハル様・アキ様、お誕生日おめでとう御座います!!」」」」
「「わぁ………っ!!」」
突然鳴らされたクラッカー音。
目に飛び込んできた煌びやかな装飾の数々。
手作り感溢れる弾幕には、大きな文字でHappy Birthdayと書かれていて。
(ぇ、)
呆然と前を見つめると、ハルの親衛隊の人たちが笑いながら拍手をしてくれていた。
「こ、れは……」
「クスクスッ、驚きましたハル様? 実は親衛隊みんなで準備してたんです! 前々から計画立てて、装飾を作る組みと料理を決める組みとで分かれて動いていました。
さっ、お2人とも中へ進まれてくだsーー」
笑顔で俺達を振り返ったタイラの顔が、ギョッと固まる。
「アキ…様……?」
あぁどうしよう、タイラが困ってる。
返事をしてあげなきゃ…いけないのに……
「…………っ」
ーー声が、全く出てくれない。
「アキ」
隣から同じ体がぎゅぅっと抱きしめてくれた。
「……ハ、ル」
「うん」
「みんなが、俺の名前呼んで…おめでとうって……」
「っ!」
ハッと息を飲むタイラの声が聞こえる。
「弾幕にも、俺の、名前が……」
「うん、うんそうだねアキ。
だって僕らの誕生日なんだもんね」
「俺…たち、の……」
今日、11月11日は俺たちが生まれた日。
俺とハルの、特別な特別な日。
特別なーー
(そ、かぁ……っ)
「〜〜っ!」
いろんな感情が一気に駆け巡ってポタリと涙が溢れてきて、思わずハルの首元に顔を埋めた。
これまで…誕生日なんてハルにしか祝ってもらった事無かった。
電気を消した部屋の隅っこで、月明かりだけを頼りに2人でおめでとうって言い合って……
それなのに、今こんなにもたくさんの人が自分の為にクラッカーを鳴らしてくれてる。
計画立てて事前に準備をしてくれて、こんなに綺麗な装飾や弾幕を施してくれて
ーー自分の名前を、呼んでくれている。
「ぅ…うぇぇ……ハル…っ」
おめでとうって、言ってる。
拍手だって、してくれてる
全部が全部初めてで…びっくりしてどうすればいいのか分からない。
でも、でも凄く暖かくて……心が嬉しいって叫んでて。
「アキ、本当におめでとう。
これから毎年いっぱいいっぱいお祝いしていこうね」
「〜〜っ、ぅん」
頭を撫でてくれるハルに、もっとキツく抱きついた。
俺、こんなに幸せでいいのかな。
この1年で大きく変わりすぎて、まだ夢の中にいるんじゃないかと思えてくる。
でも…これは紛れもなく現実でーー
「さっ!アキ顔上げて!!みんなが心配してるよ?」
グイッと上を向かされて、袖口で涙を拭き取ってくれる。
「うんおっけい。 行ける?」
「っ、ん、行ける」
「よしっ、じゃあタイラよろしくね?」
「ぁ、は、はいっ!」
ちょっとだけ貰い泣きしてるみたいにグスッと鼻をすすりながら、タイラが心配そうにこちらを伺ってるみんなの元へ案内してくれた。
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