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(ここがハルの部屋か……)
しばらく抱きしめてると、暖かさに安心したのか腕の中でアキがうつらうつらし始めて。
そっと窓から入り、ベッドに寝かせてやった。
去り際のキスくらいは許せよ。
俺に会うまでに変な虫つけたら、ただじゃおかねぇからな。
アキが指差した窓の下まで来る。
寒さ対策は万全なのか、しっかりと窓が閉められてあった。
取り敢えずコンコンッと窓を叩いてみる……と
「ぉ、」
シャッと半分だけ開かれたカーテンから恐る恐る覗いた顔が、パァッと輝く。
ガチャッ
「サンタさんなのっ!?」
「そうだ」
いや、違げぇけど。
まぁいい、今だけ俺はサンタだ。
ドヤ顔で頷いてみせると、これまた「ほわぁ…!」とキラキラした顔で見つめられた。
そして、またキョトンとされる。
「サンタさん、なんでぼくのとこにいるの? へやまちがってるよ?」
「っ、ククク」
(あぁ本当、全くお前らは……)
頭に〝?〟を浮かべてる顔へ面白そうに笑いかける。
「弟の処ならさっき行ってきたぞ?」
「えっ」
「もうプレゼントは渡してきた。だから次はお前だ」
「ぼく……?」
「そうだ。あ、いい子じゃないとかそういうのは無しな。俺は見習いのサンタだからいい子も悪りぃ子も区別がつかねぇ。だから全員にプレゼントをやってる。
お前は、何が欲しいんだ?」
「ぼく…は………」
するりと下に向いた視線。
だが、アキみたくおどおどした尻すぼみな雰囲気ではない。
「サンタさん、あのね?」
そうして、アキよりも早く返ってきた、答え。
「アキに、もうひとつプレゼントあげて?」
(成る程……そう来るか)
「ぼくね、おかあさんたちからもらってるんだぁ。だからぼくはもういらないの。ね? だからぼくのぶんまでアキにあげて?
あ、でもサンタさんやっぱりこういうのこまっちゃう…? ひとりひとつまでってルールがある?
それならね、ぼくお菓子がいいっ!」
(お菓子、ね)
確かアキが言っていた。
『幼い頃はハルだけにプレゼントやお土産があったから、それを2人で分けていた』と。
『だから分けやすいような物をハルはいつも両親に頼んでたんだ』と。
弟の為を思ったプレゼントの選定。
気を使った…良く言えば心配りのある物選び。
でもそれは、お前の欲しいものじゃねぇよな?
こいつも一緒だ。
自分の本音は隠して、他人のため一生懸命。
本当は、自分の為だけにもっと欲しいもんがあるんだろう?
なのにお前はいつもそれは頼まず、アキの為他の物を頼んでんのか。
(あーぁ、何だかなぁ)
俺がこれくらいの年齢の時はなにしてたっけ?
あぁ、確か習い事が楽しくて楽しくてとにかくいろんな世界にのめり込んでいた。
こんなに幼い頃からここまで心が育ってりゃ、そりゃ初対面でアキとあった時あぁなって当然だな。
何か…何かこいつに渡すもんは無いかとポケットに手を突っ込むと、コロリとした感触が2つ。
「ん、手ぇ出せ」
「こ、こうっ?」
差し出された小さな両手。
そこに、見つけた大玉の飴を2つ乗せてやった。
「わぁ!おっきい……!!
こんなに大きなあめ初めて見た!」
ナイスだったな。やっぱ変な魔法でもかかってんのか?
よくわからないが、偶然でもありがたい。
キャッキャっと嬉しそうに喜ぶハルの髪を「良かったな」とかき混ぜる。
「アキの為の物を一緒に」という本音の、もうひとつ先。
ハルが心から欲しいと思うものは……まだ別にある筈だ。
だが、それを俺が聞くことはできない。
俺じゃ無理だな。だってアキがいるから。
ハルは絶対その心の内を俺に話してくれないだろう。
俺も、それを無理やり聞く権利はない。
俺が出来るのは、精々その一歩手前の願いを叶えることくらいだ。
ーーこいつの心を見るのは、恐らくアキよりも厄介
だが………
「なぁ、ハル」
「? なぁに?」
「お前、ちゃんと元気でいんだぞ」
もっともっと先の未来で、アキよりも後にこいつと出会う。
そこでお前は、俺に『友だちになりたい』と言うんだ。
思えば、誰かに『友だちになりたい』なんて言われたのは初めてだったんじゃねぇか? ってことは、俺の記念すべき友だち第1号はハルだったのか。
ま、悪くねぇな。
「うん? ぼくげんきでがんばるよ?」
「あぁ、そうしてくれ」
まだ幼い分、これからも抵抗できずたくさんの身体の不調があるだろう。
でも、どうか懸命に乗り越えて欲しい。
そしてその先に…きっとーー
(お前にも、大切な奴ができるよ)
アキと同じくらい…もしかしたらそれ以上に大切な存在。
俺じゃ聞くことができないその厄介な胸の内にノックをするような、そんな奴が。
半端な奴だったら、俺とアキが許さねぇがな。
あと月森も。あいつは怖ぇぞ、絶対。
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