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ーーあぁ、早く終わってくれないかな。 振り落とされる拳に体を丸めながら、今日も小さく息を吐く。 早く梅谷のところへ帰りたいな。 今日も寮の玄関で待っていてくれてるのだろうか。 5限目の授業中「電話がきてるぞ」と担任から呼ばれた。 チラリと梅谷を見ると、苦しそうに顔を歪めていて。 その顔だけで頑張れるなぁと思いながら、ふわりと笑って学園を出てきた。 〝誰かが、自分の帰りを心配して待ってる〟 これだけでどれ程心が救われるか…… (っ、くそ) 全部を守るのは到底無理だから、せめて顔だけでもと歯を食いしばり腕のガードを固める。 あの日言われた、助ける為に動いてるという話。 怖くて詳細まではちゃんと聞かなかった。 けど…やっぱり、甘いかもしれないけれどどこかで期待してる自分が……いて。 (「信じなくていい」って、「返事もいらない」って言われたのにはビックリしたな) あの人には、一体どれだけ自分の事が分かられてるんだろう? もう隠し事なんて通用しないんじゃないかな? 確かに信じれはしないけど、でもあんなこと言われると…私の心は どうしても…… (ーーっ、) これ以上彼を悲しませないように、したい。 もうあんな顔されるのはこりごりだ。 梅谷が私のために動いてくれてる。だから、私も精一杯己を守らなければ。 精一杯 ちゃんとーー 「……ねぇ、ケイスケ。 君は一体、いつからそうなったんだ?」 「っ、ぇ………?」 ずっと無言で殴り続けていた男が、久しぶりにポツリと言葉を漏らした。 「前までの君は、まるで暗い海の底にいるかのような…そんな瞳をしていたんだ。私が何をしても表情ひとつ変えない、綺麗な人形。そうなるまでに随分時間がかかったよ。 なのに、ねぇどうしてだいケイスケ? どうしてそう……頑なに私を拒むようになった??」 「ーーっ!ぁ」 グイッと胸ぐらを掴まれ、顔を近づけられる。 「ひっ」 「あぁそう、その目…その目だよケイスケ。その瞳いっぱいに私を映して怯える顔……!私はその顔が大好きなんだ!! なのに、最近の君は変だ…まるで何か新たな意識が芽生えたような可笑しな目をする。 あぁ、一体誰が私のケイスケに余計な入れ知恵をしたんだ? んん……?」 「っ、」 落ち着け 落ち着け、怯えるな。 (弱みを、見せるな) 梅谷や父さん母さんも、この男に何かをしている。 私の為に戦ってるんだ。 だから、私も戦わなければ……っ。 ぎゅぅっと目を瞑ってゆっくり開き、震える唇を噛みながら真っ直ぐに男を見つめる。 「…言うつもりはない、か」 「ぁりま、せん……!」 「あぁケイスケ、そんな可愛くない顔をしないでくれ。前みたいに怯えてみせてよ」 「っ、私は、もう怯えない……!」 これまで7年間…ずっと耐えてきたけれど。 (これ以上、屈服しない!) 負けて…たまるものか……!! 「……ふうんそうか。残念だ」 はぁぁと溜息を吐きながら、男が項垂れた。 「ずっと、これまでみたいな君でいてくれたらなぁ。私も日常を忘れられるんだが…… こうも変わってしまうと、もうどうしようもないな」 チャキッと不思議な金属音が、男の右ポケットから響く。 「ねぇ、ケイスケ。 ーー私と一緒に死のうか」 「ーーーーぇ?」 取り出されたのは、鈍色に光るナイフ。 「私もね、もう駄目なんだ。何をやっても上手くいかない…前は右肩上がりな人生だったのに。だからさ、もう一緒に死のう? このナイフで君の心臓をひと突きして、私も自分の心臓を刺すよ」 「………ぇ? ちょ、な…にを……っ」 言葉の意味が 理解できない。 この男は、今 なんて? 私を刺して…自分も死ぬ? 私は ーー彼に、殺されるのか……? 「ーーーーっ!? ゃめっ!!」 「おっと、暴れないで。死ぬ前に傷ついてしまうよ。 ……あれ? でもそうだな、どうせならナイフで甚振ってから殺すのもいいか。あぁそうだ、それがいい。 きっと君の歪んだ綺麗な顔と声が聴ける…!」 嘘、嘘だ 待って 待って、お願い 「ゃ、め…ゃめて、く、ださ……っ」 辞めて、離して、殺さないで 殺さないで、お願い (やっと、心を許せる人が 出来たんです) 何かあったらすぐに気づいて、心配してくれて。 何度突っぱねてもいつも優しく見守ってくれて、それに酷く安心して。 初めこそ不器用な手当てだったけど、最近は私より上手になって。 「シュント」って呼ぶと、凄く嬉しそうにクシャリと笑ってくれる。 そんな、 もう6年も前からずっと一途に、想いを伝えてくれた人が…… 〝ケイスケ〟 「………っ、シュン、ト……」 (あぁ、わた、わたし…は) 私は、まだ彼に……何も返せてなiーー ガチャッ!! 「ーーーーおい、そこまでだ」

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