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「…………ん」 身動いで時計を確認すると、まだまだ朝には早い時間帯。 (まだ…こんな時間か……) 久しぶりに、懐かしい夢を見た気がする。 私がまだこの学園の生徒だった時代の、あの男に囚われていた時のーー 「ケイスケ」 「っ、ぁ……」 肩を掴まれ布団の中に引き寄せられて、大きな体にギュッと抱きしめられた。 「なんか、変な夢でも見たか?」 「ぃえ…… 少し、この学園の生徒だった頃の夢を……」 「そうか」 落ち着かせるように、ポンポン優しく背中を撫でてくれる。 そういえば、あの男から解放された後も暫くはトラウマのように夢に男が出てきてしまって。 その度に、こうやってシュントが宥めてくれてたっけ。 ずっと昔の記憶だったから、忘れてしまっていた。 「髪、伸びたな」 「ふふ、そうですね」 バッサリ切った、18歳のあの日。 どうしようかと思ったが『長い髪が好き』と言ってくれたこの人のため、またコツコツ伸ばした。 「業務中は結んでますし、邪魔にはならないんですよね。でも流石にお尻まで伸びたら切ってますよ」 「そうなのか。まぁ座る時もいちいち気にしねぇといけないのは確かに疲れそうだ」 「クスクスッ…… 身体の傷も、本当にありがとうございました」 好きだと告げてから、あの男と過ごした7年間よりもずっと長い時間を共に過ごした。 その間、毎日毎日忘れずに塗ってくれたそのおかげで驚くほど私の肌は綺麗になって。 今では、昔あんなに痣があったなんて想像もできないくらい。 「ふっ、これは俺の愛の力だな。 7年間…お前になんの障がいも残らなくて、良かった」 「私の両親も本当に喜んでましたね」 「そうだな」 本当、たくさんの心配をかけてしまった。 今は何もなく平和に過ごしているからいいのだが…… (そういえば) 「ね、シュント」 「ん?」 「アキくんが遠くの学校へ通っててハルくん達を小鳥遊の屋敷に送った日。 あの時、もしハルくん達が失敗してたら動くつもりでした?」 「そうだな。まぁ、お前の時みてぇに親父と連携したかもしれねぇな」 ハルくんも綿密に計画を立てていたから、きっと私やシュントの家まで調べていたはず。 それなのに実行した計画の中に私たちの役割が送迎だけだったのは、大人の手を借りたくないという現れなのか…それとも…… 「ま、小鳥遊の社長もバックに俺らがいること知ってただろうしなぁ。その上であいつらだけで挑んだ事、嬉しかったんじゃねぇ?」 学生の成長は見守るものだと思う。 変に手出しして助けてしまうと、成長しなくなってしまうから。 「もし失敗したとして俺らが動いたら、どうなってただろうな?」 「そうですね……その未来は、想像できませんね」 「ハハッ、同感」 クアァ…と欠伸しながら、シュントが擦り寄ってくる。 「な、ケイスケ。 今幸せか?」 「えぇ勿論。 貴方は?」 「俺も幸せ」 ズリッと身体をシュントの方へ向けて、おでこを合わせる。 「このまま定年まで先生をして、退職後はどうしましょうか」 「そうだな…… 退職金がっぽり貰って田舎でのんびり?」 「クスクス、いいですね。楽しそう」 「だろ? それでヨボヨボのじじぃになってもずっと同じ布団で寝て…… ーー最期は、一緒がいいな」 「そうですね。 それで、来世でもまた会いましょう」 「あぁ、絶対だ。 どんな生物になっててもめぐり逢おうな」 「はい」 ああ、本当に幸せだ…… 久しぶりに見た、大切な人と大事な関係になった時の夢。 あの瞬間が無かったら…今の私は確実にいない。 (ありがとう、シュント) あの時、私を見つけてくれて本当にありがとう。 ずっとずっと諦めずに私のことを想ってくれて、本当にありがとう。 選んできた沢山の選択肢が繋がって、今を作っていて。 その奇跡に感謝しながら 大好きな人の腕の中で、再び眠りについたーー (なぁ。俺が防音にしたあの仮眠室、今の代のあいつらも使ってんのかな) (っ、そんなのどうでもいいじゃないですか) (いや良くねぇだろ、俺がやったんだせあれ? 歴代の生徒会役員ももっと俺に礼言ってくれてもいいんじゃねぇのか??) (はぁぁ…クスッ。 本当、まったく貴方は……) fin.

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