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シンデレラ 1
むかしむかし
人里離れたとある森に、麗しい双子の兄弟がいました。
お兄さんの体が弱いことから、家族でこの場に移り住んだのです。
両親は兄に付きっきりで、あまり弟のことを顧みません。
しかし弟は兄のことが大好きで、兄もまた 弟のことが大好きでした。
ある日のこと。
「「舞踏会?」」
「あぁ」
父親の手には、1枚の綺麗な招待状。
「この国の王子が婚約者を探すらしい。
王子と変わらない歳の子がいる家に、これを届けているそうだ」
王子は、確か双子のひとつ上。
ーーだが、届いたのは何故か 1枚のみ。
「恐らくハルが森から出てないから、この家に子どもは1人と思ったんだろう。
近くの街へ行くのもアキだからな」
確かに、買い出しなどでいつも顔を見せるのは弟だけでした。
だから街の人たちが、招待状を配っていた城の兵に「はずれの家の子は1人だ」と教えたのかもしれません。
ということは、これは弟宛てに届いたもの。
舞踏会へ行くのは弟なのでしょう。
ーーしかし
「ハルを行かせたほうがいいんじゃないかしら」
兄は外に出たことがない。
今回の舞踏会はたくさんの子が来る分、兄を紹介するにはいい機会だ。
王子の婚約者に選ばれるのは難しいかもしれないが、他にもいい家柄の子はいるし、何かしら接点が生まれれば兄の将来に繋がる。
体が弱いからこそ、強い関係を築かせておくべきだ。
「舞踏会には私たちも行くから、ひとりじゃないわ。大丈夫よ」
「でも、僕は踊れないのできっと失礼に」
「踊らなくていい、ただ話をすればいいんだ。
安心しなさい」
「っ、けど……」
「当日は何を着よう」「アクセサリーは何がいいかしら」
もはや決定事項というように計画を立てていく両親とは裏腹に、兄の視線はどんどん下がっていきます。
そんな兄の手を、弟がキュッと掴みました。
「ハル、行ってきなよ」
「なんでっ、これはアキに来たものだ」
「俺はいっぱい外行くからそこで繋がりできるしさ。
母さんと父さんが言うとおり、これは俺よりハルに必要なものだよ。
だからさ、行って」
「〜〜っ、」
「あぁもーまたそんな顔する!
すごい豪華そうじゃん、舞踏会!キラキラしてそうだし、ご飯も美味そうだし!勿論母さんたちが言うみたいに関係築くのも大事だけどさ、楽しんでこいよ。普通に」
「…ア、キ」
「体調には気をつけて。絶対無理すんなよ。
キツかったらすぐ休ませてもらって、それでもダメだったら帰ってくること。いい?」
「……」
「ハール、返事」
「…………っ、ぅん」
「よしっ」
納得していないという顔の兄に笑って、弟が優しく頭を撫でてあげます。
…と、その手をグイッと引っ張られ、体ごと兄に引き寄せられました。
「ハル? ふふ、ぎゅーね」
「……アキ」
「ん?」
「い、って…くる……ね」
「うん、気をつけて。帰ったらどんなだったか教えてよ。
あぁ、それと王子様!どんな奴か見てきて。この国が変な方向行きそうだったらマジで他の国行こうぜ、違う意味で将来が不安」
「っ、ふふ、そうだね」
「だろ?
そこもしーっかり判断してきてください、ハルさん」
「りょうかい、アキさん」
「「あははっ」」
クスクス笑う肩へ、互いに頭を乗せ
双子は、しばらくそのまま抱きしめ合いながら話をしているのでした。
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