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「はぁぁ…心配だ……」
窓辺に肘をつき、弟が溜め息を吐いています。
つい先ほど、兄たちが出発していきました。
普段とまったく違う服を着た兄は、笑いながらも緊張が隠せない様子で。
初めての森の外な分、心配でなりません。
(俺も付いて行けたらよかったんだけど……)
あいにく招待状は1枚。留守番をするしかない状況。
両親が一緒だし、ハルも自分の体調は自分で分かるだろうから大丈夫とは思う…けど……
もし、倒れたら。
パニックのようなものに、なってしまったら。
ーー俺が、1番側で助けてやりたいのに。
「………ん?」
なにか、庭のほう。
白く光ったような気がして、思わず身を乗り出します。
まさか泥棒……?
今ひとりだから、そこを狙われたとか?
「っ、」
急いで玄関まで走り、ほうき片手にそっとドアを開け 外へ出ていきました。
(確か、光ったのはこの辺だったはず……)
そろりそろり
忍び足で進んでいきますが、誰もいません。
まさか見間違い?
そんな、結構強く光ったはずなんだけどーー
「おい」
「っ!」
「後ろだ後ろ」
振り向くと、白いローブに白いとんがり帽を被った、背の高い男がいました。
夜なのに顔がはっきり見えて、なんだか男の周りだけ光り輝いているようです。
「お前がアキか」
「……だれ、だ?」
「俺は魔法使いの………佐古だ」
「さ、こ……」
「いや、本名は別にあるんだが……長いから佐古でいい」
「佐古…」
なんだか不思議な響き。
彼が魔法使いだからでしょうか?
自分は夢でも見てるのかと頬をつねりましたが、びっくりするほど痛くてこれが現実だということを教えてくれます。
「って、いや俺の名前はどうでもいいんだよ。
おい、てめぇはアキで合ってんのか?」
「ぁ、は、はい」
「よし。
ーー俺がお前を、舞踏会へ連れて行ってやる」
「………ぇ」
いきなり来て、一体なにを……?
目が点になっている弟に背を向け、魔法使いは庭を歩き始めました。
「このカボチャがいいな。おい、これ1個借りるぞ」
「あ、はい!って、へ……?」
魔法使いが持っていた杖を振ると、たちまちカボチャは大きくなっていきます。
そのまま車輪が生え窓が生え、すぐにお洒落な馬車になりました。
「馬は…お前らだな」
ネズミ取りにかかっていたネズミ数匹に、また杖を振ります。
すると今度は、綺麗な白馬へと変わっていきました。
「あとは御者とお供……こいつらにするか」
丁度近くを歩いていた、仲睦まじそうな2匹のトカゲ。
それに杖を振ると、どんどん人へと変化するではありませんか!
「え、なにこれ一体何が起こったの!?
おれたち人になってる!」
「お前…魔法使いか……?」
「そうだ。悪いが俺の仕事に付き合ってくれ。
お前らはあの馬車を動かせ。片方はこいつのお供だ」
「いいよー!」「わかった」
人になれたのが嬉しいのかぴょんぴょん飛び跳ねて抱きついているトカゲを横目に、再び魔法使いは弟のほうへ戻っていきます。
「もう頬つねらなくても俺が魔法使いだって信じるだろ」
「待っ、て…え、なに、これ……」
「最後はお前だ」
目の前に、あの杖。
思わず目を閉じると、杖を振られたような風を感じました。
「おい、目を開けろ」
「っ? う、わぁ……!」
ゆっくり瞼を開くと、ふんわりした綺麗な布。
今まで着ていた服はなく、まるで貴族のお坊ちゃんのような身なりをしている自分がいました。
髪の毛もしっかり整えられていて、足の先から爪の先まで輝いてるみたい。
特に履いている靴。ガラスでできてるようで、珍しくて思わず見入ってしまいます。
「完璧だな、これで舞踏会に行ける」
「そんな…俺、本当に……?
ってか、なんでこんなこと」
「さぁな。とりあえずさっさと行け、俺の仕事は終わりだ。
あぁ、一応お前とバレないように魔法をかけてる。双子の兄が行ってんだろ? バレたら親にもやばそうだし、すれ違ってもアキとはわからねぇようにしてあるから」
「あ、ありがとう……」
「よし、じゃあ行ってこい。
おい、準備できたぞ」
「おっけい!」
お供になったほうのトカゲが、パタパタ歩いてきました。
「わぁ綺麗だねー!
ぼくの名前はイロハ、あっちがカズマ。
よろしくね!」
「あ、うんっ、よろしく」
「早く行こー!馬車楽しみだねぇ」
パッと手を取られ、待っているカズマのほうへ引っ張られていきます。
「あ、そうだ0時!!」
「「「??」」」
「お前ら全員0時に魔法が消えるから、それまでには戻ってこい!
分かったか!?」
「はーい!」
0時。
時計の針が2本とも丁度真上で止まる時間が、タイムリミット。
今からならまだまだ時間はあるし、大丈夫のはずだ。
遠くからハルを見守って、なにかあったら助けて……
背中を押されながら馬車に乗り込み、ひらひら手を振る魔法使いへ手を振り返しながら
まだ夢うつつのような気分で、弟は城へと向かっていきました。
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