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(あれ? アキだ) 舞踏会で両親と共にいろんな人と話をしていた時、ざわりとどよめく空気に兄が周りを見ました。 突然大きく空いた大広間の真ん中。 そこに、王子様と戸惑うよう手を引かれる1人の子がいます。 それが誰だか分かった瞬間思わず両親を見ましたが、気づいていない様子。 そういう細工をしてあるのか、それとも…… よく分かりませんが、兄にはすぐ弟だと理解できました。 話していた人たちに怪しまれないよう話を合わせながら、ハラハラ弟を見守る兄。 様子からして、きっと無理やり手を引かれたはず。 なんでここにいるのか、誰に連れてこられたのか…… 全然知らないけど、とにかくピンチなのはわかる。 なにか…僕にできることは……! (って、あれ……) ダンス用の曲が響きはじめ、お手並み拝見というように王子様が弟を見ました。 すると、慣れたようにお辞儀をし、すぐ王子様の手を掴む弟。 そのまま、リードするようふわりと踊りはじめました。 なんでだろう、僕らはダンスなんか習ったことない。 それなのに、あんなに上手に踊れてる。 弟自身も驚いている様子で、表情と体の動きが合っていません。 王子様も「まさかここまで上手いとは」と驚きつつ、リードされるのが気に食わないのかすぐ主導権を奪いました。 互いが主張し合いながら、何かを言い争いながら忙しなく踊りまわっています。 しかし、曲が変わるごとに段々息が合うようになり、遂には楽しそうに笑いながらダンスをする姿が見えるようになりました。 これには、今か今かと踊る順番を待っていた子たち 世間話に花を咲かせていた大人 料理を作るコックや飲み物を運ぶ召使いまで、皆が驚きながら眺めています。 〝あの王子様が、あんなに楽しそうに笑っている〟と。 「ーーっ、はは」 そんな中、兄だけが乾いたような笑い声を発しました。 そして、同じく夢中になっている両親へ小さく「夜風にあたってきます」と言い、1人ゆっくりとバルコニーのほうへ歩いていきました。 「はぁぁ………」 バルコニーと大広間を繋ぐカーテンを閉め、溜め込んでいた息をすべて吐き出します。 1人の空間。やっと、呼吸ができたような感覚。 (アキ、すごかったな) 魔法なのか何なのかはわからないけど、すごく綺麗でした。 服も似合っていて、ダンスも踊れて。 動くたび生まれる楽しげな靴の音が耳に残って、それをもっと聴いていたいと思うほどで。 ーー本当 「僕とは、大違いだ」 弟宛ての招待状を奪った。 両親から綺麗な服をもらった。 おかげでたくさんの人と話ができて、関係を繋げた。 そんな僕とは…全然…… 「〜〜っ、」 悔しいのか、悲しいのかは、よく分かりません。 でも、兄はよく こんな気持ちになります。 双子なのに、僕と弟はあんなにも違う。 弟はひとりでも立てるのに、僕は誰かの助けがないと立てない。 しかも、僕は自分が立つため、弟のものを奪ってしまっている。 いつもそうだ。 父と母の愛も全部僕が独り占めしていて、お金も全部僕の薬代で消えるから我儘も言えなくて、それ以外にもいろいろ……今日だって。 でも、今のアキはとても輝いていた。 (ほらね? 母さん、父さん) ーーあの招待状は、僕のじゃないってば。 「あぁ、ほんと」 手すりにもたれ、外を眺めます。 僕がいなかったら、きっとアキは辛くなかった。 好きなことができて、森の中じゃなく街に住めて、両親の愛情も、友だちもたくさんできて…… そんな当たり前の日常を手に入れることができた。 僕がいるから、それができない。 奪われて、窮屈で、でもそんな中明るく笑って。 (いっそ僕がいなくなれば、すべてが解決するのだろうか) 僕が消えれば、アキは幸せになるのだろうか。 僕が、消えれば 僕がーー 「こんばんは、麗しい君」 「っ、」 いつの間にカーテンを開けられたのでしょう。 振り返った先、ひとりの男が佇んでいました。 「長時間こんなところにいたら、体に障るんじゃない? ほら、部屋へお入り」 「……いえ、結構です」 「ふふふ、強情だなぁ。 じゃあ、僕もそこにお邪魔していい?」 「ぇ、」 兄がなにかを言う前に、あっという間に隣へ来られてしまいました。 「はい、これ温かい飲み物。 心配しないで。何も入ってないから」 「………あの、あなたは…?」 ここにある程度の時間いたこと 部屋に入るのを断られると分かっていて、温かい飲み物を用意していること まるでずっと自分を観察していたかのようなそれに、緊張が走ります。 そんな兄に、目の前の男はとろけるように甘く 笑いました。 「初めまして。 僕の名前はーーーー」

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