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sideハル: 片割れと、違和感
海を眺めて、泳ぐアキたちに手を振って
砂の上を歩きながら、ヤドカリを手に乗せて笑ったりして
調子のいい時は少しだけ海に入って、気持ちよさを感じながら足をばたつかせてみて。
クーラーの効いた涼しい空間
大きな机に夏休みの宿題を広げて、みんなで勉強したり。
流し素麺・かき氷に、水風船・ヨーヨー
びっくりするほど夏を感じながら過ごして、気づけば旅行にきて1週間と半分が過ぎていた。
僕の体調も、悪くなったのは始めだけであとは安定してる。
先生は相変わらずだけど、僕なりに諦めるとこは諦めて対処するとこは対処してっていう線引きをしっかりしてるおかげて大丈夫そうだ。
使用人たちにも感謝しながら、行く気はなかったのにこれまでで一番休暇らしい休暇を過ごせてることにすごく満足してしまってる。
「あ、ハル」
「ん?」
今は、スイカ割り。
カズマの綺麗な一本が決まって、割れたスイカを別荘の庭で食べてる。
お腹いっぱいになったから手を洗うついでに何か飲もうとキッチンへ入ると、既に先客がいた。
「アキも手洗ってたの?」
「うん。あと飲み物飲みたいなって」
「一緒だ、冷蔵庫の右側にジュース入ってなかったっけ」
「俺もそれ覚えてたんだけど無いんだよな。誰かが飲み切ったのかも。
下の冷凍庫に凍ったペットボトル入ってたから、それ出して飲もうぜ。ハルの分も出しとく」
「ありがと」
手を洗ってから、氷を溶かす為シャカシャカボトルを振ってるアキから1本もらう。
そのまま、どちらからともなくリビングの大きなソファーに座った。
シィ…ンとした部屋の中
みんなの楽しそうな声が遠くから聞こえて、なんだか切り離された空間のよう。
「…なんかさ、夢みたいだよな。毎日」
「そうだね。こうやって過ごすなんて思わなかった」
「夏が近くにいるな」
「うん、いる」
こんなに側で夏を感じたことなんて、本当にない。
僕は年中部屋の中にいたし、四季なんて無かった。
「スイカ割りってあんなに難しいんだな。
舐めてかかってびっくりした」
「ね、僕もびっくり。案外前も後ろもわかんなくなるもんだね」
「カズマが割ってくれなかったらあと何順したんだろうな。笑ったわー」
「クスクス、本当に。助かったー」
「はははっ」
冷たいペットボトルを持ちながら、ゆっくりゆっくり会話していく。
そういえば、アキと話すの久しぶりだ。
いつもイロハやカズマがいたり、レイヤがべったりひっついてたり先生がピッタリくっついてたりで、中々2人で話すことがなかった。
学園では普通だったのに、なんだか不思議な感覚。
あれ? というか……
(僕たちって…いつもどんな会話してたっけ……?)
生まれてからずっと2人で話してたのに、なんでか思い出せない。
どうして? こんなこと今までなかった。
それなのに何故か、こうして話をしてることに違和感を感じてしまってる。
違和感……? 何に感じてるの?
これは僕の片割れなのに、違和感なんてーー
「そ、そう言えば流し素麺も難しかったよね。最初全然掴めなかった」
「あ、あれなーあれも難しかった。
来るって分かってるのに箸から抜けていって、気づいたら誰かに取られててさ。
でもコツ掴んだら取れたな」
「うんうん、コツ掴むまで笑われたね」
「本当に!みんな上手すぎだよな」
「ねー……」
なんだろう、やっぱり変に感じる。
スイカ割りの話が終わったから、次は流し素麺の話。会話を繋ぐため自分から話題を探しにいった。
(共通の話題って、あと何があるっけ)
前ならもっとスムーズにポンポン会話できてた。自然と話ができて、話題を探さなくても気まずくはならなかった。
なのにこんな ーーって、
(え? 気まずい……?)
「あ、あのさハルっ」
「っ、なに?」
やや上擦った声に上擦った返事。
チラリと横を見ると、ペットボトルの氷を見ながら変な顔してるアキがいる。
アキも不思議に思ってる…? なんか違和感を感じてるけど、上手く言葉にできない的な……?
「ハルはさ、その……楽しい? 今」
「今? うん、楽しい……」
「そ、か…そうだよな……
俺も今すごい楽しくて、海とか初めて来たし毎日外いるとか変な感じで」
「そういえば、アキちょっと焼けたね」
「そう!すごいヒリヒリする。でも赤くなったらまた戻るんだ。体質?らしいけど…」
戻るといっても、以前のような白さはない。
夏が終わったらまた僕と同じ感じになるのかもだけど、今のアキは健康そのものだ。
健康…そのもの……
(なんか、)
ーーなんか、アキが別人みたいだ。
当たり前じゃん。アキは健康で僕は病気がち、いつもそうだった。
でも、なんていうかここまで自分との差を感じたのは…初めてのような気がする。
(そうだよ、だってずっと一緒だった)
何をするにも一緒。
隣には常にアキがいた。
家でも、学校でも、寮でも、ずっと。
多分外だからだ。
こんなにアクティブな場所だから、自然と僕らには差ができる。アキにできることが僕にはできないというのが、より明確になる。
だから2人で話すこともなかったし2人きりになることもなかった。レイヤや先生の妨害はあっても、ごくごく普通に一緒にいることは…夏休み始まりから今まで、無かったんだ。
(ーーーーっ、)
なんだ、これ?
まるで心臓を掴まれたような感覚。
なんでこんなふうになる? 体の内がキュッとなって、寂しさが広がっていく。
どうして寂しいんだ? 自分はこれを望んでただろう?
アキが僕から離れて、自由になっていくのを。
ーーなのに。
「……っ、ぁあの、アキ」 「ハル、えぇっと…俺」
「あら? おふたりともどうなさったんですか?」
僕らだけの空間に、別の声。
慌ててそちらを見ると、両手に大きな袋を持った使用人が立っていた。
「あぁ、飲み物ですね!
申し訳ありません、丁度切れていたので皆様がスイカ割りをしているうちに買い出しへ」
「ぁ、ありがとうございますっ、袋持つの手伝います!」
「僕も!」
「大丈夫ですよ、どうぞそのままで。
それよりも何か別の飲み物を用意しましょうか? お待ちのペットボトルは大分氷が溶けていますが、飲まれてらっしゃらないようなので……」
「「えっ、」」
思わず一緒に視線を下げた 先
持っていたペットボトルは、氷が溶け飲める液体が大分溜まっているにも関わらず、チャプチャプ音を立ててしまっていたーー
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