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振り返ると、呆れるように立ってるレイヤがいた。
「やけに盛り上がってると思ったらすげぇ話してんな。
文化祭のことじゃねぇのかよ」
「レ、レイヤ…」
「ごめっ、ちゃんと仕事もするから!」
「うわぁぁ会長!こんちにはっ」
「矢野元からは遅れるって連絡来たが、まさかお前らも始めてなかったとは…ったく……
相談ごとは帰ってからにしろ」
「うんごめん…僕から始めたんだ。
まさかこんな真剣に聞いてくれるとは思ってなくて……」
「あー成る程、はぁぁ……」
ドカッと空いてる席に腰を下ろし、ジト目で僕を見てくる。
「まぁ、あらかたなんの話かは想像つく。つか少し聞こえたしな。
用はあれだ、ハル」
「? なに?」
「お前ヨウダイとキスしたいか」
「え」
「それ以上のことは? 例えばセックスとかーー」
「な、ななななに言ってんの!それとこれとは関係なくない!?」
「いやあるだろ。
したいと思うなら、お前からヨウダイへの気持ちは恋や愛のほうに傾いてるってことだ。
それを伝えるかどうかはお前次第だが……ま、大丈夫だろ。
というか、さっきも言ったがお前らは難しく考えすぎだ」
「「「……?」」」
みんなでキョトリとするなか、レイヤが深く溜め息を吐いた。
「俺たちは日本人だろ。だから日本語を使ってる。
日本語の言葉の意味は、ひとつじゃなきゃいけないのか?
なんのための日本語だ」
「………ぇ、どういう…こt」
「ま、俺からの助言はここまでだな。
というかハルとヨウダイか…実感ないけど、まぁお似合いっちゃお似合いか。でもやべぇな、変な感覚すぎる。
俺も次会ったらなんか話しとくか。おし」
話は終わりだというふうに長身が立ち上がる。
「お前らもさっさと仕事しろ。この期間の遅れは取り戻すのに時間がかかるぞ。そして俺は人的トラブルで計画通りにいかないことが最も嫌いだ、だから話してた分きっちり働いてもらうからな」
「ひっ、やらなきゃ!えぇっと今日回るクラスは……!」
「ハル、とりあえずまた後で話そうぜ!流石に喋りすぎた……」
「うんっ、僕のほうこそごめん、ありがとう」
やばい。去年を知らないからなんとも言えないけど、修羅場と化してる生徒会室は今日も戦争の予感。
僕も足を引っ張らないよう自分のやるべきことをやらなければ。
「あ、そういやハル。
お前旅行の最終日、ヨウダイと一緒に寝ただろ」
「えっ」
「はぁ!? なにそれ聞いてない!」
「ハルの純情はもうなくなっちゃってたの!?」
「ちょっ、待って言い方!ただ単に寝ただけだから!」
「あのベッド、ヨウダイが記念だっつって持って帰ったらしいぞ」
「…………は」
え、記念? なんの?
初めて一緒に寝ました的な? えぇ??
「……それ、最早コレクションじゃん。
ならやっぱハルへの『好き』はfavoriteなんじゃ」
「はー? 意味わかんない、もうおれ乗り込む」
「待っ、待って2人とも」
またわいわい話しはじめたアキとイロハを宥めながら、ニヤリと笑うレイヤを睨む。
このタイミングで話すこと? 話さないでしょ普通。
人的トラブルで計画が遅れるのが嫌だって言ったくせに自分が乱しやがって…しかも面白がってるし。
(本当なんなの、龍ヶ崎は)
謎すぎる。もう理解しようとしないほうがいいかもしれない。
というか、素の先生と初めて話したときも同じこと考えたな僕。
『髪の毛一本、切った爪ひとかけら、浸かったお風呂の水でさえも全部飲み干してしまいたいと思うくらいに愛してる』と言われ、思わず体が固まった。
もしかしたらあの人は、ベッドだけじゃなく一緒に過ごした部屋やリビングのソファー…あの屋敷ごと持って帰りたかったと、考えてるのかもしれない。
(狂気すぎるでしょ…頭のネジどころじゃない……)
おかしい、本当に。
そしてそんな人とどうこうしたいのかもと考えてる僕は、もっとやばい。
「はぁぁ………」
頭が痛い。アキをどうするか考えてたときよりもずっと。
くそう。
だが、とりあえずは目の前にある業務をせねばと 自分の机に向かった。
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