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sideハル: 文化祭と、先生 1
「おはようハルちゃん、お招きありがとう」
「……おはようございます…」
バタバタながらも着実に準備し迎えた、2日間の文化祭。
1日目は午前中に生徒会・午後はクラスの手伝いで忙しく、気がついたら終わってしまっていた。
2日目は生徒会業務をイロハとカズマにバトンタッチ。1日目の生徒会中自由にしてた2人と代わって、今日はその時間僕らが自由になる。
クラスの手伝いは発生するから、午前中は僕・午後からはアキが自由に散策できるシフト。
そんな感じで先に自由になった僕を真っ先に訪ねてきたのは、ヨウダイ先生だった。
「先生すごっ、開始の放送と同じタイミングでクラスに来るってどういうこと……? おはようございます」
「僕のハルちゃんへの想いかなー、おはようアキくん」
「まじかぁ…」
先生が来るまでの間手伝おうとしてた僕の肩に、ポンっとアキの手がのる。
分かってたよこうなるのは。なんとなく予想してたよ。
『…先生、来週末暇ですか』
『え、行っていいの!? 行く!』
こんな、主語の完全にない状態で話が通じた検診日。
誘われるのを待ってたか、それとも行く気でいたかは分からないが、僕の目には思いきり尻尾を振ってる幻想が見えた。
誘ったのはなくとなく。
自由な時間をもらえて、真っ先に浮かんだのがこの人だったから。
断るかなとか思ったんだよね。一応医者だしそんなポンポン休み取れるポジションの人じゃないし。
だからギリギリまで黙って、文化祭に1番近い検診日で言おうと思ってた。
(でもまぁ、この先生のことだもんね…当然行けるか……)
どんだけ僕のこと大好きなんだ。
一周回ってもはや潔い。
今日の先生は白衣じゃなく秋物のシャツに細身のズボン。コートを片手に、扉付近で長身を屈めニコリと笑っている。
「誰?」「え、知らないの!?」とクラスがザワザワしだすのと同時に、「じゃあ、行ってくる」とアキへ話し先生のところに向かった。
「ここがハルちゃんの過ごしてる学校かー。綺麗だね」
「そりゃ、これだけ有名ならそうでしょ」
外部の人でごった返してる廊下。
僕からは人しか見えないけど、先生の目線なら校舎が見えてるのだろう。
ヨウダイ先生の身長はやっぱり一般より高いみたいで、こんな人混みでも頭ひとつ分出てる。
「で、ほんとにハルちゃん行きたいとこないの?」
「特に。もう生徒会で全部回りましたし」
「それじゃ、僕がハルちゃんの時間もらっていいってこと?」
「………なんか、その言い方嫌だ」
「あははごめんごめん!
じゃあハルちゃんがよく使う教室とか見て回りたいな。
よく歩く廊下とか、よく行く場所とか。
案内してよ」
「それ、文化祭と関係なくないですか」
「いいのいいの。
お祭りよりハルちゃんが過ごしてる場所のほうが気になるな、僕は」
「……っ、」
違う違う、今のは引くところ。
なにキュッて鳴ってんだよおかしいだろ。
「あ」
「ぇ、わっ」
腰に回され、いきなりグッと抱き寄せられた。
慌てて振り返ると、大きな着ぐるみを着た生徒が看板片手に歩いてて。
「へーアニマルカフェだって。あの着ぐるみも手作りかな。よくできてるねーさすがだ。
あとで行ってみる?」
「っ、っ」
あぁもう一旦落ち着け!
なんだってこんなにアワアワしてるんだ自分!!
思えば、僕先生とこうやって日常を過ごしたことない。
前回の旅行は仕事で来てたし、ちゃんと医者らしいことして過ごしてたし。
今は完全オフ。先生は私服で医者ではない。
なら僕との関係も今は主治医と患者じゃない。
(え、なら何なんだ?)
知り合い? 友人? それともーー
「ハールちゃん、立ち止まるなら端行く?
ここじゃ危ないかも」
「っ、ぁ」
ハッとすると、顔をのぞいてる先生。
「お疲れかな? 1日目大変だった?」
「いいえ全然っ、大丈夫です。
それより本当に僕が普段使う場所知りたいんですか?
いま文化祭の準備室になってるとことかもありますけど」
「うん。そっちのほうがずっと楽しいな。
見れる範囲でいいから見せてよ」
「……わかりました…」
「よし、それじゃ行こっか」と半歩前を歩きはじめる先生。
歩くスピードは僕と一緒。
しかもみんな長身を避けてくれるぶん僕がすごく歩きやすくて、そんな状態にもギュッとなりながらここから1番近いよく使う教室へ向かい歩いた。
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