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同じ階のつきあたり。
通い慣れてるインターホンを、押す。
「……っ、」
ガクリと力が抜け、壁にもたれるようにして座り込んだ。
手が震えてる。何度も何度もさするけど治らない。
インターホンちゃんと押せた?こんな指で本当に鳴らせたか?
たった今の出来事なのに覚えてない。なんか、前のカードみたい。
あの時も確か、押せてるか不安でーー
「ふ、っ」
またぶわりと涙が溢れてきて、視界が滲んだ。
目が覚めてからいろんなことが当時と重なる。動かない体・締め切ったカーテン・寮・インターホン・文化祭……
あの日の自分と今の自分がぐらぐら揺れて、吐きそうで、苦しくて。
(ゃ、だ)
怖い。どうしよう、もうそれしか考えられない。
どうすればいい?
あの時の俺は、どうすればよかったんだろう。
どうすれば
レ イ
「ーーアキ」
「っ、」
温かいものが、蹲ってる俺を大きく包み込む。
それにビクリと怯えて、でもなんなのかすぐ 分かって。
「〜〜〜〜っ!」
目の前にある肩へ、思いきり顔を埋めた。
ソファーに座るレイヤへ抱かれたまま、ゆっくり呼吸する。
顔はまだ肩。涙で片側だけ濡れてしまってる。
「あぁ、そう。そうだ」
俺の背を撫でながらもう片方では通話。相手は、恐らく月森先輩。俺がここに来たから、先輩が俺たちの部屋に泊まるんだと思う。
(なん…か……)
こうなるなら、最初から今日泊まっとけばよかった。
今日というかもう日付過ぎてる時間帯。朝日が昇ったら文化祭が始まるのに、2人に迷惑をかけてる。
月森先輩は迷惑とは思ってない、わかってる。
けど、レイヤが予測してくれてた。もしかしたら思い出すかもと忠告してくれた。
それを蔑ろにした…俺の責任。
こんなことになって結局レイヤのとこ訪ねて縋り付いて、馬鹿じゃん。
(ほんと、最悪)
「アキ」
通話の終わったレイヤが、スマホを置いて抱きしめてくる。
レイヤはさっきから何も言わない。ただ名前を呼ぶだけ。
それが…優しくて。ただ寄り添ってくれるのが、酷く温かくて、安心して。
「〜〜っ、ふ」
「〝ごめんなさい〟も〝ありがとう〟もなにもいらない」という声が、聞こえてくるようで
それに甘えさせてもらいながら
段々落ち着いて緩んできた思考のまま、急激に襲いくる眠気に 目を閉じた。
***
「すぅぅ…はぁぁ……」
玄関ドアの前で、深呼吸。
朝起きたら広いベッドの中。あのまま寝てしまったらしい。
また夢を見るかもとかそういうのを考えることもなく、一度も目覚めずに迎えた朝。すごすぎる。
まぁ連日の業務で疲れてたし本番前で体ギリギリだったってのもあったのかもだけど
(レイヤのおかげだよな…これ……)
1人だとあんなに取り乱したのに。玉を握っても駄目だったのに。
やっぱり俺の中のレイヤの存在はでかい……知ってたけど、なんか改めて感じた。相当大きなものになっててもう手放せそうにない。
「行けるか?」
「……た、ぶん…」
「無理ならここにいていい。俺や月森が一緒にいる」
「いや、それは…いやだ」
昨日のこともあって確実に「大丈夫」が言えない。
自分でも予想できないフラッシュバックが、また起こるかもしれない。
でも、
「行きたいから…行っていい……?」
ここで大人しくしてたほうが、レイヤと先輩の負担が減るんだろう。生徒会も去年と同様、俺無しで回して。
けど、それは嫌だ。
行きたい。せっかく準備を頑張った文化祭に参加したい。
ちゃんと最後まで楽しんで、この嫌な記憶以上の思い出を…つくりたい……
「ん。なら行くか」
何の躊躇もなく、頭にポンッと手がのった。
「もう他の奴らは生徒会室着いてんだろ、急げ。
午前中は生徒会の業務だし俺と一緒だ。安心していい」
「……ぇ」
「午後からはクラスだが、丸雛たちにフォローは言ってある。月森も抜かりはない。
去年みたいなことにはならねぇよ、絶対」
「っ、」
「だから、お前はお前のまま 楽しめ」
ニヤリと笑った顔は、今日も最高に輝いててかっこいい。
昨日はあんなに迷惑かけた。
疲れて帰ったのに真夜中のインターホンに気づくなんて、気を張っていた証拠だ。俺は平気って言ったのに心配してくれていた。
あと必死だったから気づかなかったけど、昨日裸足で訪ねてたらしい。今朝靴や制服を先輩が届けてくれて知った。そんな部屋着ひとつで蹲ってた俺を抱き上げてくれ、さりげなく部屋の温度を上げてくれて。
吐きそうなのがわかったのか、側に袋も用意してくれ背中を撫でてくれて。
「大丈夫か」「もう安心していい」「寝れるんなら寝ろ」とか、そんな言葉は一切なく ただずっと名前だけを呼んでくれた。
きっと、そんなあなたには俺が何を思って行く選択をしてるのかを、分かられている。
「ーーっ、ありがと……」
俺のことを1番理解してくれて、大事にしてくれて、寄り添ってくれる人。
昨日とは違う涙がじんわり滲んできて、それを苦笑気味に拭われながら
手を繋いで 一歩を踏み出した。
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