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不安・恐怖・体の震え この期間ずっと抱えたままかと思ってたそれは、始まってからすぐ頭の隅へ追いやられた。 「レイヤ次の場所!ここから遠いから走れって!」 「待て引っ張るな!もう少し落ち着け」 午前中からレイヤとクラスの見回り担当。 滞りなく始められたか・何かトラブルは起きてないかの確認なんだけど、とにかく人が多くて多くて…… (ぜんっぜん進めないんだけど!?) なんでだ!? ちゃんと人が多くなる順番予測しながら回り方検討したのに、外れた!? なんでこの時間ここ混んでんの!? なんか聞き漏らしたことあったっけ…もらった資料と違うことしてるクラスがあるとか? 実行委員近くにいないの? 戻ってイロハたちに確認してみたほうがいい? 一体なにがーー 「アーキ」 「ぅわ、っ」 すれ違う人とぶつかりかけて、グッと腰に手を回された。 「お前忘れたのかよ、行事のあるある」 「? あるある?」 「去年の体育大会。来場者が多くて当日駐車場を広げて片付けで使う場所使えなくて、お前が計画し直しただろうが」 「……あ」 あったそんなこと、懐かしい。 確か、外からの歓声を聞きながら静かな生徒会室で練り直したんだ。 そのときはまだ〝会長〟呼びで、突然訪ねてきたこいつに膝枕してやったんだっけ… 「行事なんて大抵そんなもんだ。どんだけ計画しても結局当日は人の動きで変わる。臨機応変が1番ってことだ。 来年はお前らが仕切るんだからちゃんと学んどけよ」 「っ、はい」 「もう現状からしてその順番で回るのは無理だ、時間内にも終わりそうにない。人の流れで空いてそうなとこから訪ねていったほうが効率的だ。 おい、後どこが残ってる」 「えっと…この校舎だと上の階に2つ、その上に3つ。 それから隣の校舎はまだ全然回れてない」 「なら先に隣行くぞ。多分今こっちのほうが人が多い。 先に向こう終わらせてからまた戻ってくるか」 「わかった」 俺たちのことをチラチラ見てくる人はいる。 そりゃ生徒会役員だし龍ヶ崎と小鳥遊だし、いろいろ要素はあるだろう。 でも誰も話しかけてこない。遠巻きに見てくるのみで、去年みたいに囲まれることはない。 明らかに急いでるのが分かるから? それともレイヤや先輩がなにかした? わからない…けど、ありがたすぎて そのまま互いに相談しながら集中し、なんとか時間内に周りきった。 「はーーー……」 チャプンと沈む、浴槽の中。 生徒会として走り回って、少し休憩したらクラスの手伝いでまた動いて… 気づいたら、1日目が終わっていた。まさに戦争。もう抜け殻状態。 (人が多すぎるんだよなぁ……) 有名校だし全寮制だし、そりゃ親も親戚もこぞって我が子を見にくるわけで。 わかってるんだけど本当びびる…でもこれでも入場制限してんだよなぁ……やば…… 去年は人酔いした。キツい香水のせいもあってそれが原因だったけど、今年はなんともない。 多分外に行くようになったからだ。街へ出かけてるから。俺も人慣れできてきたってことかな…でも、一応明日も薬忍ばせとこう。 明日もきっと多い。今日と同じくらいの…はず……だから……… 「……だめだ寝そう、あがろ…」 ザバッと立ち上がり、風呂の扉を開けた。 文化祭期間中、俺はレイヤの部屋に泊まることが決まってる。 その間月森先輩が俺たちの部屋に泊まってくれるそうで、ハルに「楽しんでおいで」とニヤニヤされた。 (いや…楽しむも何ももう指一本動かしたくないけど……) 夕食はさっき食べた。 あとはもう歯磨いて寝るだけ。 レイヤはまだリビング。 呼びに行くと疲れたように立ち上がった。流石のこいつも疲れるか、そりゃそうだよな…… 「先寝とけ。瞼閉じかかってんぞ」 「そう、する」 「俺も後で行くから…と、待て。 お前髪濡れてんじゃねぇか」 「今日はもういいじゃん……」 「駄目だ。そういうので一気に風邪ひいたりすんだ、ちゃんと乾かせ。 おら、もっかい風呂場行くぞ」 「うぇぇやめろひっぱるなー」 「俺が風呂出るまでドライヤーしとけ。 チェックするからしっかりな」 「っ、くぅ……」 はいはい睨んでも無駄だーと洗面所の椅子に座らされ、ドライヤーを握らされ しょうがないとウトウト手を動かすけど、すぐそこで聞こえる水の音につい瞼が落ちて、洗面台に突っ伏すように眠ってしまっていて。 最終的に上がったレイヤに苦笑され、抱きかかえられながら 知らず知らずの間に、ベッドで眠りこんでしまったーー

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