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第16話 ネコ
猫、だからさ。
久瀬さんが執筆をしている日中、家事が終わって、なんもすることがなくなったら、背後にあるソファに座ってた。そこから出ないで、ケージの中にいるみたいに。コーヒー飲みながら、この人の執筆している背中を見つめるのが、たまらなく好きだった。
書いてる、ただそれだけでドキドキした。
この人が書いてるところにいれることに、胸が躍った。
久瀬さんの細くて長い指が、執筆の時、キーボードの上を軽やかに動いていくのを見るのが好きだった。脳みそと直結しているみたいに、きっと久瀬さんの頭の中をそのままリアルタイムで綴っていける指は俺にとっては魔法のようだった。
「あっ……ぁっくっ」
その指が、俺の中、にあるなんて。
「はぁっ……ぁ」
嘘、みたいだ。
「久瀬、さ……ン」
あんたの指が、俺の中を――。
「久瀬、さ、ぁ、ああああっ」
暴いてるなんて。
「クロ」
久瀬さんが少し難しい顔をして、指が中をまさぐったと思ったら、何かに触れた。その次の瞬間、内側のスイッチを入れられたみたいに、全身に閃光のような快楽が走り抜ける。感電したみたいに指先まで痺れるほどの、気持ち良さ。
「あっ、ぁっ何っ」
背中が反り返って、汗がぶわりと肌を濡らす。
「平気か?」
「う、ん、ぁ、久瀬っ……さ」
「気持ちイイ? 今、触ったとこ、前立腺」
「あっ、うん、そこ、気持ちイ」
シーツをかきむしりながら、ぬちゅくちゅ音が立つ、自分のそこから滲む快感に震えてる。尋ねられてコクンと頷いた。
「あと、さ」
「どっか痛いか?」
違う、と首を急いで横に振る。じゃないと、あんたが出ていってしまいそうだから。
「痛くな、い。そう、じゃなくて、久瀬さんの指が……ここに」
「……」
「俺ン中にあんの、嬉しいって、思った」
「っ」
「んっ」
重いのに、気持ちイイ。久瀬さんが覆いかぶさって、深く濃いキスをくれた。舌を伸ばして、この人の口の中に進入して、唾液もらって飲んで。唇が離れた瞬間、糸が俺たちを繋げてくれた。ほら、指が抜けちゃうから。その代わりみたいに。
「……久瀬さん」
「んー?」
「も、挿れる?」
あんたのことが、好き、なんだ。
「そしたら、俺も、していい?」
「はっ?」
「久瀬さんの……」
慌てるこの人を今度は俺が押し倒した。跨って、上から見つめたら、自然と喉が鳴る。コクンって鳴って、飲み下した欲望が腹の下んところにぽとりと落ちたような気がした。
「舐めても、いい?」
「クロ、おい、無理すんな、別に」
だって、さっきあんたはやってくれただろ? あんたの口の中に俺の入れさせてもらった。
「やったことないだろっ」
ないよ。同性とセックスしたことない。ないけど、ずっと、したかった。
「クロっ」
「……ン」
あんたのペニス、舐めて、しゃぶって、咥えてみたかったんだ。
「んっ、んっ」
舌を使って、唇で扱いて、頬をすぼめて、できるだけきつく狭めて。久瀬さんが気持ち良くなるようにってしたい。
「んっ」
「クロ」
「っ」
なのに、俺の頭を撫でてくれる手に気持ち良くされる。口の中で感じる久瀬さんの熱に火照る。硬くて、生々しい熱さのペニスを喉奥鳴らして、しゃぶってる。ちゃんと反応してくれてるのも嬉しかった。俺のきっと拙いだろう舌にもしかめっ面になってくれるのが嬉しくて、舌で丁寧に舐めて、濡らした。全部、先端から根元まで。丁寧にゆっくり。
ね、ここ、好き?
くびれのとこと、あと、先端のところ。吸い付くとさ、ほら、また、久瀬さんの呼吸が乱れる。
「ン、んんんっん、ン」
気持ち良さそう。
「ク……ロ」
「ン、んっ」
「クロっ」
「んんんっ」
夢中になってしゃぶってた。久瀬さんが気持ち良さそうにしかめっ面をしたら、すごくカッコよくてさ。長い黒髪も、普段縛ってるのに、おろしてるから、色っぽくて、たまんない。だから、舌を這わせて、ペニスにたくさんキス、してたのに。
「……お前ね」
そのキスを中断するようにあの指が俺の口の中に横入りした。
「可愛いよ……ホント」
「あっ」
ベッドの上、体勢はまた逆転。組み敷かれて、久瀬さんの重さに息が詰まる。
「力、抜いとけ」
「ン、ぁっ」
「挿れるぞ」
「ン」
ずっと欲しかったものに、胸のとこが焦げそう。
「あっ」
久瀬さんの綺麗で繊細な言葉たちを紡ぐ指と全然違う。
「あっ、あぁぁっ」
何、これ。
「ク、ロっ」
「ぁ、はぁっ」
身体の奥、俺の知らないところが引き裂かれそう。熱いのが自分の身体なのか、久瀬さんのなのかわかんないくらい咥え込んだ孔のところがぎゅうぎゅうにしがみついてる。すごい、苦しいのに。
「ぁ、久瀬さんっ」
なんで、こんな気持ちイイんだろ。
「っ、クロ」
「ぁ、あっ、あっ……あぁぁあっ」
恥ずかしい格好してる。股広げて、あられもない格好で。すごく恥ずかしいのに。こんなとこにペニス挿入されて。男なのに、乳首にキスされて感じて。女性みたいな、甘ったるい声なんて出して。
「クロ」
「っぁ、あっ、ぁっ……ン」
「クロ」
けど、すごく、嬉しかった。
「お前、ホント、可愛いなぁ」
久瀬さんとセックスできて嬉しかったんだ。
ずっと抱かれたいって思ってた。ずっと、この人に抱いて欲しいって思ってた。
「あっ……ンっ、久瀬、さんっ」
「好きだよ」
「ンっ」
奥深くまで、久瀬さん受け入れて、食べるみたいにキスして、吐息も唾液も飲み干す。身体全部を繋げてセックスした。
「久瀬、さっ……っん、俺、もォっ」
「っ」
早くなる腰つき、乱れる呼吸、俺の中で、久瀬さんのが暴れてて、熱くて、ぐちゃぐちゃだ。
「あっ、くぜ、さんっ、久瀬さんもっ、イっ、あああっ」
「っ、抜く、ぞ」
「あ、やだっ」
「クロっ! こら、ゴム、してねぇつうの」
「やっ、だ」
中に出して欲しい。だから、ぎゅっと強くしがみついた。
「クロっ」
「久瀬さんの、欲しいっ」
止まらないで。そのまま全部俺のところに注いで。お願いだから。
「あ、ぁ、あ、あああああああ」
久瀬さんのこと、たまらなく好きなんだ。何よりも好きで、何よりもあんただけが、欲しいから、全部、お願い。
奥が熱い。
この体温を知ってる。
「あっ、久瀬、さんっ」
ずっと背中感じてた俺より少し高い体温を、今夜、自分の中で感じてる。この人が、とても好きだって、思ってたから、抱かれて、たまらなく、幸せで、涙が零れたんだ。
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