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第20話 黒猫は主の帰りを待ち焦がれる。

 時間のこと、忘れてた。  何時に帰ってくるのかわからなかったから、イヤホンしないようにしたけど、久瀬さんのことを思い出すのに夢中になってて、気がつけなかった。 「あっ……っ」 「クロ?」  久瀬さんが、帰ってきたことに、気がつけなかった。  帰ってきたばかりのこの人に、ズボンと下着をずり下げて、後ろの孔をいじってるところを見られてるなんて、気がつかなかった。 「お前、アナニーなんて、いつ覚えたの?」 「ぁ、あなっ?」 「アナニー、前じゃなくて、こっち使ってするオナニーのことだよ」 「あっ、冷たっ」  今夜は冷え込むって言ってた。だから、帰ってきたばかりの久瀬さんの指は氷みたいに冷たくて、その冷たい指に孔のところを撫でられて、きゅんとまだ咥えたままの自分の指を締め付ける。 「ちがっ、今、初めて、した、ぁっ」 「つい一昨日まで処女だったのに」 「んっぁ、はぁ」 「それに、このCD? 何、これって」  そうだよ。久瀬さんが書いた脚本の乙女CDだよ。 「聞きたくて」 「……」  あんたはイヤそうだったけど、それでもファンの俺にしてみたら、あんたの紡ぐ言葉一つだって知っておきたいって思うんだ。  地の文がないとか、あるとか、台詞のこととか、わからない。専門家じゃないから、そんなのあんまりわかってないけど、でも、久瀬さんの欠片がここにもあるなら俺は欲しいよ。少なくとも俺はドキドキしながら聞いてた。 「……ごめ、久瀬さん」 「よかったか?」 「え?」 「気に入った?」 「ぁ、ん……ドキドキした」  こんな格好で何言ってんだって話だけどさ。でも。 「楽しかった、よ? あと、その、二つ目のやつ、声が、少しだけ久瀬さんに似てた」 「……」 「久瀬さんに言われてるとこ、想像した」  あんたに甘やかされてるみたいで、女の人、主人公の声が一切入ってないからかな。俺が言われてるみたいに感じられて、そしたら、なんか。 「お前、ホント、可愛いなぁ」 「え? なんで」 「ここ、好き?」  話してる間中も疼いてた孔をまたなぞられて、きゅんとした。そして、何かがとろりと蕩けて、腹の底のところがじんわりと熱を持つ。 「ン、好き……久瀬さんに」  昨日もしたかった。一昨日抱いてくれたみたいに、また、セックスしたかった。でも、はしたないかなって、淫乱って思われないかなって、思って我慢したけど。 「久瀬、さんに、そこ、されるの、好き」  我慢できなかった。 「お前ね……」 「したい、よ、久瀬さん」 「ホント、処女だったとは思えないな」 「あっ」  淡白、なほうだったよ。俺。  あんたには言えないけど、女の子と付き合ってる時、セックスしたいと思ったことなかったし、定期的に向こうが怒らない程度の頻度でセックスしてた。気持ちよかったけど、のめりこむほどじゃない。 「ぁ、ああああっ、ン」  射精はするけど、頭の中が真っ白になるほどの快楽じゃない。 「久瀬さんっ」 「お前の中、あっついな」  自分の指を咥えたまま、新たに招いた、長い指。 「久瀬さんの指、冷たい」 「あぁ、外、寒かったから」 「あっ……ン」  氷みたいに冷たいと中にいるのがよくわかる。 「あぁっ……ン、抜いちゃ、ぁ、久瀬さん」 「クロ」  その指がぬちゅくちゅと音を立てて俺の中を掻き混ぜたと思ったら、抜かれた。そして、尻をわし掴みにされる。俺の中であったまった指と、まだ冷たいままの指が尻に触れる。触れて、揉まれて、俺の中が熱くなる。 「久瀬さんのこと、あっためてあげる」 「……クロ」 「だから、早く、ここ。いじってた、から、もう挿る、よ」 「本当に、処女だったとは思えない、エロさ」  四つん這いのまま、背後が見えない状態で、次に孔に触れたのは硬くて、先がまるまっている、熱い、久瀬さんの、ペニスだ。 「あ、ぁっダメ?」  だって、あんたに抱かれるの。 「ダメじゃねぇよ。ただ」 「あっ……ぁ、っン」 「歯止めが効かなくなるから困るなって」  すごく気持ち良くて、好きなんだ。 「あ、あぁぁぁぁぁっ」 「っ、すげ」 「久瀬さんっ、の、ぁっ」  ずぶずぶと入ってくる熱い塊に、腹のところがいっぱいになる。あんたでそこが埋まるこの感じがたまらなくて、すごく、好き。 「あぁっ……ン、ぁ」 「動くぞ」 「ン、あぁぁぁっ!」  チャコールグレーのコートはすごくあったかかった。ソファで寝てた時、足にかけてくれたけど、そのコートすごくあったかったからさ。暑そうだよ。ほら、汗、かいてる。そう思って、後ろに手を伸ばしたら、その手を掴まれた。両手を掴まれて手綱みたいに後ろに引かれると、ずぶりと久瀬さんのペニスが奥深くに自然と突き刺さる。 「あっ、ン、久瀬さんっ」 「ここ、好きだろ? 孔んとこ、悦んでる」 「ン、好き、そこ、突かれるの」 「っ、お前ね、そこで素直に言うなよ。可愛いだろうが」  また、同じ箇所を突かれて、快感が駆け抜けた背中が弓なりに沿って仰け反った。 「あ、はぁっ……ン」  久瀬さんのことしか、考えられなくなる。 「ぁ、あ、外、寒かった、ん、でしょ?」  それがたまらなく気持ちイイ。 「クロ?」 「手、さっき、冷たかったから」  俺の手を掴んでいた手を片方だけ、引っ張り返して、胸のところに押し付けた。掌をぺたりとくっ付ければ、まだ温まりきってない掌の温度差に、孔が久瀬さんのペニスを締め付ける。 「ン、あったまって」 「……」 「俺の、身体で、ぁっ……ンっぁ、ダメっ、それ」  その手が、指が俺の乳首を摘んでくれた。あの指が、俺の、小さい粒を摘んで、引っ張りながら、もう片方の手が腰をわし掴みにする。その手に、俺の手を重ねて、自分からも背中を反らして、奥まで来てくれるようにってした。 「それ、したら、もっ」  奥を久瀬さんからも強く突いてもらうとたまらなくて、俺は我慢なんてできなくて。 「も、イくっ」 「っ」 「ン、ぁっああああああっ」  腰を必死に揺らす俺と、一緒にイってくれた。久瀬さんの射精を中で感じながら、抱きしめてくれた久瀬さんが愛しくて、服を着たまま帰ってすぐに抱かれたことが嬉しくて。 「ん、久瀬さん」 「……」 「おかえりなさい」  そのシャツの襟んところにそっと口付けをした。

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