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第21話 ぴくん、って
「あ、ねぇ、久瀬さん」
「んー?」
「明日って、暇?」
二人の声がバスルームで響き過ぎないよう、こそこそ声で話してた。たまにお湯の中から手を出すと、雫の落ちる音が耳に心地良い。ピシャピシャって音を聞こうと、何度も手を湯に入れて、出して、また入れて。
「お前、作家に明日の予定を聞くなよ」
「ダメなの?」
「まぁ、サラリーマンほどは忙しくない」
俺は久瀬さんに寄りかかって湯船の中で猫可愛がりをされてる最中。たまにうなじとか、肩のところにキスをされると、ただそれだけでさっきしたセックスの余韻が残る身体には甘くやらしい刺激になるのに。
「んっ、久瀬さんっ」
ほら、またそうやって、悪戯してくるんだ、この人は。
「ちょ、じゃなくてっ、明日っ」
「暇だけど?」
肩のところに歯を立てられて、少し食い込んだところを舌で撫でられるのが、気持ちイイなんて。
「なんで?」
「手袋、買いたいんだ。クリスマスプレゼントでもいいかなって思ったけど」
でも、そこまでここにいさせてもらえるかわかんなかったから。
今は……いたい。ここに、あんたが俺を嫌いになるまで、できるだけ長く、ここにいさせて欲しい。
「もう、今すでに寒いからさ」
少しでも長くあんたの黒猫でいたい。
「あー、まぁ、そうだな」
「!」
「クリスマスには別に欲しいもの、あるしな」
「え? あんの? なにっ、ぁっ! ……ンっ」
「決ってるだろ?」
耳元で低く、語尾のざらつく声がくすぐってくる。さっきこの人の太くて硬いペニスを咥えていた孔を指で撫でながら。
「ぁ、ンっ」
「クロ」
このタイミングで、名前呼ぶのはズルいよ。まるで、クリスマスに欲しいものが、クロ、みたいだ。俺のことをその日欲しいって、言われてるみたいで、奥が切なくなる。
恋しさで、俺の指じゃ届かない場所が切なげに欲しがる。
「あっ、ぁ」
くぷくぷって浅いところをいじられるの、苦手だ。
「久瀬さんっ」
とても気持ちイイのに、奥を抉じ開け攻められる快楽を知った孔はこれじゃ物足りないって、浅ましくあんたの指を咥えるから。
「お前の髪って、柔らかくて、好きだ」
「んっ」
言いながら、濡れたうなじにキスをされた。
「髪、性感帯なんじゃね?」
久瀬さんらしくない口調。だけど、久瀬さんが書いた言葉。
「トラック、いくつだっけ?」
「あっ……ンっ」
「俺の声で想像してたってやつ」
してたよ。あんたの低い声でこれを言われたらって、抱いてくれた時の顔を想像して、そしたら、熱くてどうしようもなくなった。
「んんっ、や、久瀬さんっ」
摘まれたのは乳首。両方の乳首を人差し指と親指で摘まれて、背中を仰け反らせて声を上げてしまう。跳ねたお湯の音と喘ぎがバスルームを賑わせる。
「お前、感度良すぎ」
「や、だって」
摘まれたまま、爪先でカリカリされたら、お湯の中でわからなくなるけれど、先走りがペニスの先から溢れ出るくらいに気持ちイイ。
「あ、やっ……ン」
痛いくらいに刺激されて、でも、そのすぐ後に指の腹のところでいいこいいこってされて、どっちもたまらなく刺激的で、おかしくなりそうだ。
「あ、ぁっ、久瀬さんっ」
「クロ」
「んんんんっ」
少し身体をずらされ、指をいじってくれていた手が前へと伸びる。何をするのかと思ったら、ポンプからボディソープを出して、指先にまとって、そのまま湯から出ていた乳首に塗りつけられた。
ヌルリとした感触は身体を洗ってるだけの時とまったく違ってる。
「やっ……ン」
「クロ」
「あ、やだ、ダメっ」
ヌルリ、ヌルリって滑らされて、もどかしさに身悶えた。
摘んで欲しい。きつく強く引っかいて欲しい。先端を可愛がって、欲しい。
「あ、やだ、久瀬さんっ、久瀬、さんっ」
もっと、してよ。乳首、あんたの指でいじめてよ。
「やらしい顔……」
「んっ」
ねだりたくて振り返ったら奪うようにキスをされた。舌を入れられて、口の中をセックスみたいに荒らされて暴かれていく。唾液が溢れて顎を伝うけれどすでに濡れててわからない。
口を大きく開けて舌を伸ばして、久瀬さんを欲しがる俺に、笑ってないでよ。
「久瀬、さん」
そんな嬉しそうに笑わないで。
「なんだっけ? この後、あのシナリオの台詞」
「ぁっ……」
あんたのことこんなに好きなのに、もっと好きになるから。そんなふうに笑わないで。
「ぴくん、ってした……感、じた?」
「あぁ、そうだったっけ。っていうか、よく覚えてるな」
「ん、ぁっ」
だって、あんたのこと、好きだから。その笑った顔も、この指も、ペニスも、仕草も、そして、あんたが紡いだ言葉も。
全部好きだから、覚えるよ。
「クロ、ぴくんってした」
「あ、あっ」
ボディーソープをまとった指で乳首の先をくるりと撫でられて、腰が浮き上がった。
「感じた?」
「ン、ぁ、感じ、ってる」
その後、なんだっけ。シナリオの台詞は、えっと、思い出せない。
「可愛いクロ」
「あっ」
「このまま、俺の指で乳首可愛がられて、イってみせて」
「ぁ、ぁ、ぁ」
「ほら……クロ」
ピン、って指先で弾かれた。そして、きゅって摘まれてしまえば、もう。
「ぁ、あああああああっ」
あんたのことしか考えられない。頭の中が真っ白になるほどの快楽を乳首に与えられて、またイった。湯の中に、白いとろりとした体液を零して、愛しい人の腕の中で、射精した。
「あっ……ン」
「クロ」
そして肩口を噛まれて、また、軽く、イかされた。
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