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第27話 色猫
いいのに。いらないのに。だって、もう今更だし。俺は男なんだから、そんなの気にしなくていいのに。
何を買うのかと思った。風邪なのかと心配したのに、久瀬さんが向かった先は薬コーナーでも、本日お一人様二点限りのトイレットペーパーでもなくてさ。
「すげぇ、仏頂面」
「……だって」
今更、ゴムなんて買わなくていいよ。
「仏頂面になりたいのはこっちだ」
買い物を終えて店を出たところで、久瀬さんがボソリとそう呟いた。だって、いらない。ゴムしたくないんだからしょうがないじゃん。
「だって……久瀬さんはっ」
俺は、あんたの全部が欲しいのに。
「カゴを取る時、カートをしまうの手伝ってあげてただろ?」
なんのことを突然言い出したのかと、きょとんってなった。数秒後、それが店に入った時、ちょうど出てこようとしていた女性客の押していたカートのことだと気がついた。ドアの溝に嵌ってて困ってそうだったから、引っ張り上げて、代わりに仕舞ってあげたことを言われてるんだって。
「小さな女の子が前を見て歩いてなくて、ぶつかって、笑いながら、気をつけないとって注意しただろ?」
いた、けど? 危ないじゃん。小さな子だったから、俺の視界に入ってなくて、俺も気をつけないとだけど、君もねってさ。
「それと!」
「く、久瀬さん?」
「レジにいた大学生、スタンプ、二つ、余計に押しただろっ!」
「は、はぁ? ちょ、久瀬さんっ、何言って」
「お前なぁ!」
びっくりした。いきなり、こっちを睨みながら、目前に指突き出されて、驚いた。
「タラシ……」
「はぁぁ? ちょ、久瀬さんっ」
「女性客も、ママさんも、レジの大学生も、みーんな、ぽーっとしてただろ! お前、色気すごいんだよ! 知らないだろっ」
「!」
知らないよ。そんなの、感じたことない。今まで意識したこともない。けど、今は少しだけ意識する、かな。誰彼かまわずじゃない、あんたが俺を見て、そして、抱きたいと思ってくれないだろうかと、意識してるよ。
「レジの大学生って、男じゃん」
「あぁ! そうだよっ!」
「それに、二人目は小さな女の子にママさんだよ?」
「だーかーらっ」
「色気、あった?」
あんたから見てどうだった? 俺は。
「どう見えるのかは知らないし、どうでもいいんだ。相手が他人なら」
「……」
「久瀬さんから見て、どうだった? 俺、ちゃんと、色気、あった?」
抱きたいって思って、くれた?
「あっ……ン、久瀬、さんっ」
「……」
腰を上げると、内側が久瀬さんにしがみついて、きゅぅん、って、孔の口を締め付ける。
「や、だぁっ……やっぱ、これ、やだっ」
「……」
「ゴム、邪魔っ」
久瀬さんの大きさを熱を、形を、直に感じたいのに薄い皮がそれを邪魔する。もっと熱いのに、もっと、生々しい感触なのに、ゴムの無機質さなんていらないのに。
「あ、あっ……ン、久瀬、さっ」
だから、自分で腰をグッと沈めて、深いところまでこの人を迎え入れた。一番奥のところ、射精の時に注ぎ込むように突き刺さるとこ。
決して軽くなんてない俺は腰を振って、孔からあんたのこと、咥え込んでしゃぶりつく。必死だよ。脚であんたのこと挟み込んで、ずぼずぼ、ぐちゅぐちゅ、平日の夕方、いやらしい音を立てて、セックスしてる。
「ンっ、久瀬さん、気持ちイイ?」
「あぁ」
下から見つめられて、ぞくりと快感が背中を伝う。
「お前は?」
「ンぁ、やだ、ゴム、取って」
「ダメ」
「ぁ、あっ、ン、だって、久瀬さんの生が、いいっ」
「やらしいおねだりしたってダメ」
この人の腹に手をついて、甘い声を上げながら、今日は俺がこの人を孔の口で、抱きしめてる。
だって、この人が、ゴム、するっていうから。イヤなのに。中に欲しいのに。だから、今日は俺がする。俺の欲しいものをくれないから、俺はあんたのことを好きにさせてもらう。
「あっンっ……久瀬、さんっ、ぁ、あっ」
「自分から、好きなとこに擦り付けて」
「ぁ、ぁっ、やだ、孔、広げっ……俺が、するんだってばっ」
「気持ち良さそうに啼いて」
「あ、あぁっ……ン」
「必死に俺のこと誘惑して」
だって、久瀬さんの欠片、欲しい。
「や、だ? 俺、欲しがり、すぎ?」
「いや、可愛いよ」
気持ちイイ? 生でしたら、きっともっと気持ちイイよ? 俺、生じゃないとイかないし、あんたのことイかせてあげない。欲しい? 俺のこと。イきたい? この中で。だから、ね、久瀬、さん。だから、このゴムを。
「やらしい黒猫」
「あ、あぁぁぁっ、ン、やだっ、今、触られたら、イくっ、や、だっ」
「イくとこ、見せて」
突然、腰を振る度にプルンと揺れて踊ってたペニスを握り締められた。先の丸いところを掌の柔らかいところでくるりと撫でられ、いい子って甘やかされて、一気に中が収縮しだす。
まだ、やなのに。触られて、ペニスがもっと撫でて欲しいと背伸びをした。掌のいい子ってされたくて、その先端を押し付けてしまう。
「あ、ぁっ、ンっ……やだっ、久瀬、さん、ま、って、イきたくないっ」
「ダメ、イくとこを見せて」
「や、あ、あっあぁぁぁっ!」
途端に我慢できなくなった。片手で尻広げられながら、奥深くを貫くように、荒々しく突き上げられたらもう、無理だよ。
「あ、あっ…………ン」
びゅくって弾けたそれを久瀬さんの手が受け止めた。まだイきたくなかったのに。ゴム外させたかったのに。
「、久瀬、さっ、わっ、ちょっ」
「っ、クロ」
「あ、ンっ……今、イっ」
押し倒されて形成が逆転する。ぐりっと突き刺さったままだった久瀬さんのがまた激しく中を突き荒らして、卑猥な音を立てながら射精直後でヒクつく身体を抱いてくれる。
「あ、やっ……ン、久瀬、さんっ」
「クロ」
「あ、あぁっ……ン、そこ、ん、またっ」
ぞわりと背中が逆立った。ずちゅぐちゅ、音を立てて久瀬さんに突かれる度に快感がまた膨らんで爪先まで火照ってく。
「あ、あっ、また、クルッ、イっ、あ、ぁっ」
「っ」
「あっン、ぁんっ……ン、ぁ、あ、あ、あ」
イっちゃう。そう啼いた瞬間、ずるりと抜けた久瀬さんの熱が、ゴムを脱いで、俺の上に飛び散った。
「あっつ……」
驚くほど熱い飛沫に胸の、乳首を濡らされて、顎にまでかかった白い久瀬さんの欠片。
「あっ……ン」
まだビクビクって跳ねるペニスを扱きながら、とろりと零れた残りの白をペニスの先から、乳首に塗りつけられて、たまらなく気持ちよくて。
「あ、やだっ触らないでってば」
「また、イった? お前のびしょ濡れ」
「んっ……ン、んっ……ン」
尋ねたくせに、意地悪をする。俺がゴムがイヤだと我儘を言ったことを叱るように、きつく舌をしゃぶられながら、また、ペニスを握られて、腰が嬉しそうに揺れた。
「可愛くてやらしいうちの黒猫を」
「あっ……ン、久瀬さん」
「大事にしたいんだよ」
貴方の欠片でびしょ濡れになった。これ、すごく。
「好きだから」
「あっ、久瀬……さっ、んっ」
すごく気持ち良くて、ほら、またトロトロにペニスも中も蕩けて、あんたのことが恋しいって、火照ってた。
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