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第36話 メリーべリークリスマス
クリスマスは嬉しいことが溢れると知った。
「ほら、ちゃんと髪乾かせよ」
クリスマスのセックスはやたらと甘やかされたから、たくさん、甘やかしてあげた。ゴムなしで、何度も注いでもらえて嬉しかった。
濃厚な前戯も、激しく攻められるのも、恥ずかしいくらいに感じてしまった自分も。セックスがケーキみたいに甘くて美味しくて、たまらなかった。
「俺は乾いてるってば、ちゃんと乾かしてないの久瀬さんでしょ、っ……ン」
ちゃんと乾いてるかを確かめるように、俺の髪をすいてくれる指先にすら敏感に感じてしまうほど、ケーキみたいなセックスの余韻がすごい。
「敏感」
「これはっ」
「可愛すぎ」
「あっ……ン」
蕩けた顔の自分が鏡に映ってた。後ろから抱きしめられて、うなじにキスマークを付けられている自分が洗面所の鏡の中にいた。
「あ、あぁっ」
こんな顔するんだ。俺、って、こんなに。
「クロ」
こんなにこの人が好きなんだ、俺って。
「ン、くぜ、しゃ……ン」
くるりと、腕の中でターンをして向かい合わせに。そして、首に腕を巻きつけて、舌を挿れてもらった。口の中をまさぐられながら、俺は久瀬さんの髪をまさぐる。
「ほら、全然、まで濡れてる」
「俺はいいんだよ」
「よくなってば」
「いいの」
艶やかな黒髪はまだ少ししっとりしてた。俺のことは平気だから、あんたこそ、ちゃんと乾かしてよ。あんたに風邪引かれたらやだよ。こんな――。
「いいっつうの」
「ちょっ、久瀬さんっ?」
慌てた。俺なんかを担ぎ上げるから、びっくりして暴れちゃったじゃん。でも、そんなの気にもせず、びくともせず、この人は俺を担ぎ上げたままずんずんと部屋へ。ベッドのところにそっと下ろされるとさ、本物の猫になれたみたいに思えた。
「久瀬さん?」
「そこで待ってろ」
「? あのっ」
ステイ、って、俺、猫なのに? 厳しい顔をして、人差し指で俺を制すると、ベッドを離れてクローゼットへ。もう夜、寝る時の毛布代わりにしていたコートのポケットから、何かを出して。
「渡してなかったろ」
「……」
「鍵、うちの」
銀色の、手の中にぽとりと落っこちてきた、それは、ずっとコートの中にあったから、ひんやりとしていた。
「……」
「いるだろ。俺は大概、うちで仕事だけど、買い物だなんだと出ることもあるから」
「……ぁ、あのっ、久瀬さんっ」
「アクセサリーより、服より、お前が喜ぶものって考えた」
知らなかった。
「気に入ったか?」
クリスマスがこんなに嬉しいことで溢れているのも、鍵ひとつでこんなに幸せになれるのも。
「っ」
「よかった、喜んでくれたみたいだな」
「う、うんっ、うんっ!」
「泣くなよ。なぁ、クロ。お前さ、反則だ」
ねぇ、久瀬さん、ちっとも知らなかったよ。
「泣き顔も可愛いんだな」
「あっ……ン、っもっと、奥してっ」
「っ」
ベッドが軋む。
「あぁぁっ」
「クロ」
腰をつかまれて、背後から深く激しく突かれた瞬間、また射精した。
「シーツ、代えまだあったっけか?」
「あ、う、ン、ある、よ」
「何? 今、締め付け強くなったぞ」
「あぁぁあっ」
貴方を気持ち良くできたご褒美みたいに前立腺をペニスで撫でてもらった。
嬉しかったんだ。さっきもそう。帰ってきた時、俺は風呂を、久瀬さんがチキン温めにいって、そんで、なんか普通の会話をしてた。風呂入って来いとかさ。それで小さな二人だけのパーティーした。チキンとサラダと、貴方はワイン。
「だって、なんか、久瀬さんと暮らしてるっぽくて、嬉しかった」
「……」
俺は甘いシャンメリー。お子様用のはずなのに飲んだらくらくらした。
卑猥な音響かせて、バックですごく激しいセックスをしてる。さっきまでしてたのに、また、してる。また、イってしまう。とめどなく溢れるくらいに、何度も何度も、貴方に突かれて射精しちゃうんだ。
「ぁ、やだ、抜かないで」
「わりぃ」
ぐるりと回転して、貴方の腕の中に。
額、びしょ濡れだ。もう一回、風呂入りなおさないと、風邪引いちゃう。
「顔見て、イきたくなった」
また、一緒に入りたい。そんで髪乾かして。また濡れてるって、あんたは黒猫の俺の世話をしてくれるかな。
「あ、あぁぁっン、ぁ、久瀬、さんっ」
また熱いので身体の奥までいっぱいになった。脚を広げて、久瀬さんのことを全部欲しがるこの身体で受け止めて、突かれる度に甘く啼きながら。
「ぁっン、気持ちイ、そこ、久瀬さんっ、ぁ、ンっぁあンっ」
「クロ、あんま締め付けるなよ」
「あ、だって……ン、好き」
離したくないって、締めつけてる。好きですって、あんたに抱きついてる。
だってさ、鍵、くれた。このうちにいていいと、あんたが鍵を作ってくれた。いつでも帰ってこれるように、主が飼い猫にくれたんだ。
「欲しがり」
「欲しい、よ……久瀬さんっ、また、中に欲し」
「……けど」
貴方の動きに合わせてずりあがるのを堪えようと、シーツを握り締める。
「? 久瀬さん?」
「俺も欲しがりなんだ。知ってたか?」
そうなの?
「あと、驚いてんだ。クリスマスに自分が浮かれるなんてこと、あるんだなぁって」
そうなの?
「初めてだよ」
「あ、あっ、あっ……ぁ」
「……クロ」
久瀬さん、クリスマスって、あんまり好きじゃなかったの? そう? もし、そうなら、嬉しい。だって、俺も好きじゃなかった。俺にとってはとても退屈で窮屈で、溜め息ばかりの日だったんだ。
けど、今年は違う。今年のクリスマスは違ってる。好きになったよ。すごく。
「好きだよ、クロ」
「っ」
大好きな人と過ごして、俺はクリスマスを大好きになった。
「愛してる」
「!」
あったいかいものと光と、今まで触れたことのないものが溢れて止まらない、そんな日になった。したんだ。久瀬さんとそんなクリスマスにふたりで、したんだ。
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