47 / 106

第47話 抱き合っている

 うちに帰ってきてすぐに久瀬さんがキスをくれた。まだ靴すら脱いでない、玄関のところで腰を抱かれて深く濃いキスを。奪うようにしてくれたから、奪われたかった俺はしがみついて、身体全部を密着させながら、舌を貴方に差し出した。  少し怒ったようなキスにすごく興奮した。  ったく、って、怒った口調でそう小さく呟く久瀬さんの唇を舐めて、またキスをせがんで、寄りかかると受け止めて、ベッドに押し倒される。  酔っ払った吐息はやたらと熱くて、うなじにキスをされただけて感度が振りきれて汗が滲んだ。 「帰り途中で煽るなよ」 「エヘヘ」 「この酔っ払い」  煽ろうとなんて思ってない。ただ、酔ったら、気持ちが大きく広がるっていうか、ふわふわになって、好きな人に好きだとたくさん言いたくて仕方なくなっただけ。 「あ、久瀬さん、触って、俺の、乳首、いじめて欲しい」  圧し掛かった貴方の睨みつけるような視線に興奮しながら、コートを着たまま、前だけくつろげる。ニットを捲って、すでに少しだけ反応している乳首を差し出した。舐めてって、摘んで、気持ち良くして欲しいって。 「ぁ、あぁっ……ン」  甘えて啼いた。 「あっン」  だって、本当に気持ちイイから。  噛まれるとたまらなくて、愛撫してくれる時に上体を倒した久瀬さんの長い髪が肌に触れるだけでもイけそうなくらい。 「ぁン、それ、気持ち、イイ」  そして、身体が火照って、奥のところが切なくなる。 「久瀬、さんっ」 「?」  呼ぶと、顔を上げてくれた。優しいけれど、少し険しい感じの顔をしてた。 「俺、女の子と付き合ってたこと、あるよ」 「お前、真面目だなぁ。そりゃあるだろ。気にしてねぇって」 「聞いて。その、こういうこと、も、あるよ」  酔うと、ホロホロと気持ちが柔らかくほどけて、貴方に全部曝け出したくなる。いつもなら言わない。貴方が好きで、好きで、大好きだと、ただそれだけを伝えるよ。それ以外なんて、どうだっていいから、けど、酔ってる俺は語りたくなったんだ。 「でも、好きじゃなかった」  貴方のことをどれだけ想っているのか、たくさん伝えたくなった。 「こういうこと、するの、好きじゃなかった」 「……」 「どっちかといえば、嫌い、だったのかも」  ホロホロほどけて溢れていく。 「……クロ」 「けど、好き」  自分から下着をずり下げた。触ってもらえるくらいまで自分の服を蹴散らして、貴方の手を掴んだ。 「あっ……ン」  貴方の指を招いて。 「あっぁン……好き」  キスと違わない距離まで精一杯首を伸ばして、溢れた想いを伝える。 「久瀬さんに抱いてもらうの、好き、だよ」 「……」 「貴方に」  気にしてないって言ってた。けど、俺は気にしたことがあるよ。初めて抱かれた時、俺は抱かれる側になったことがないから、久瀬さんが抱いたことのある相手と自分を比べたことがある。  そして身構えそうになった。でも、貴方が何度も可愛いって言ってくれたから、ほどけたよ。 「久瀬さんだけだから、抱いて欲しいなんて、想うの」  指、気持ちイイよ。 「あぁっ……ン、ぁ、んっ」  貴方の指に中ほぐされると、お腹の底のところ、奥の辺りがきゅううんって切なくなるんだ。すごく、すごく、抱いて欲しくて、そこを突いて欲しくてたまらなくなる。奥まで激しくされたくなる。 「ぁ、はぁっ……ン、久瀬さんの、指、だけで、イっちゃう」 「……」 「ね、久瀬さん」  声で、視線で、指先で、そして、指でほぐされてる身体の内側で、甘えてねだった。  名前を呼んだら、久瀬さんの瞳が揺れて、それをたしかめながら、自分の平べったい胸をまさぐる。ツンって尖った乳首を掌で揉んで、硬い腹を撫でて、そそり立って泣いてるみたいに濡れたペニスに触りもせずに、貴方の指を咥えた孔を指で広げる。  自分から、ここに挿れてと誘った。 「あ、ぁ、ン、も、欲しい、ょ」  こんな気持ちイイことを知ってしまったら、もう無理でしょ。女の子となんてできないよ。ここ、を。 「あ、あっ……大きいっ」  貴方の形に悦ぶように。 「ぁ、あ、ン、久瀬さんっ」  躾けられた身体じゃ。 「ぁ、あああああっ」  久瀬さん以外となんて、満足できない。 「あ、ン……久瀬さん」 「……クロ」 「挿れただけで、イっちゃった」  わかって。  抱かれたいなんて貴方にしか想わない。それと、貴方は同性愛者だから、わからないかもしれない。  俺は別に女の子みたいになんてなれないし、なりたいわけじゃない。俺なんかがそんなことしたっておかしいだけだけれど。 「あ、はぁっ……ン、ぁ、やだ、動いたら」  でも、貴方に抱かれる俺は。 「ったく」 「あっ、あっ、あ、あっン、ぁ、久瀬、さんっ」 「お前は、ホント」  嬉しくなるんだ。抱かれて、その腕に閉じ込められて、喘ぐところを見られて。 「可愛いよ」  貴方にそう言われるのがとても嬉しくてたまらないんだ。 「あ、あっああああっ」 「なぁ、クロ」 「ぁ、やぁっ……ン」  ズン、って深く重く貫かれる。しがみついて、肩に掴まりながら、ズリあがってしまうほど激しく奥を突かれた孔が気持ち良さそうにペニスにしゃぶりついてる。 「抱いてもらう、って言うな」 「ぁ、久瀬、さんっ?」 「お前の中、すげぇ、あったかくて気持ちイイよ」 「っ……ん」  抱きつきながら、抱きしめられて、身体がぴったり重なった。そのまま唇からも熱を混ぜ合うと、濡れた音が部屋に響く。  仰け反らせた首にキスマークをつけられるのが好きで、深くに久瀬さんを感じながら、印を刻まれる度に、きゅぅんって中がこの人を締め付ける。  ここに、苦しいくらいに、貴方がいる。 「セックス、してんだ」  抱き合ってる。今、ほら、こうして腕で、身体で、気持ちで。 「久瀬、さん」 「それともういっこ」 「っン、なに? ぁっ……」 「酒はできるだけ俺がいる時だけな」  お互いがお互いを、きつく、強く、抱きしめていた。

ともだちにシェアしよう!