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無口な猫編 1 焼き立てのウインナーロール
どうしようどうしようどうしよう!
ねぇ、これ。
「……どうしよう」
「え?」
「! す、すみません。なんでもないですっ」
しまった。思わず心の声が外に零れた。
「は、はぁい、以上、五点のお買い上げで……」
それでなくても五点も同じ文芸雑誌買っててさ。店員さんにめちゃくちゃ怪しい奴って思われたかもしれない。
顔、覚えられそう。久瀬さんに怪しい男のファンがいるって噂されるかも。ここの書店って、近所だから久瀬さん推ししてくれてるんだ。平置きしてくれてるし、ポップとか立ててくれるし。それに何より、久瀬さんの直筆サインをレジんとこに飾ってくれてるし。
俺も持ってる。
久瀬さんのサイン。新作の中表紙にしてもらった。
本当はああやって色紙にしてもらいたいんだけど、それを部屋に飾る気だろう? 恥ずかしい、って断られてしまう。
「……」
いいなぁ、色紙。
うらやましい。
「あ、ありがとうございましたぁ」
俺も欲しいなぁ。
「お前、どこ行ってたんだ?」
「……ぁ」
びっくりした。帰ってきたら、もう久瀬さんが起きてた。
昨日、起きてたからまだ朝の九時とかなら寝てると思ったのに。でも、そしたら、久瀬さんが好きなウインナーロールパン、ちょうど焼き立ての買ったんだ。温めなおさなくても大丈夫かも。
「ぁ、えっと、本屋に」
「本屋?」
「うん」
「お前、まさか……」
「あそこ、あのスーパーマーケットあるでしょ? そこなら朝、食料品エリアと同じ時間に本屋も開くから」
そしたら、久瀬さんのインタビューをさ、ファンの中でもダントツの一番で読めるし。
「お前ねぇ……たった一ページの半分、ちょろっとインタビューが載っただけだぞ?」
「いいんだってば」
「っつうか、お前、いくつ買ってきたんだ?」
「……五冊」
「はぁ?」
五冊だよ。これでも我慢したんだ。本当は棚に並んでたの全部欲しかったけど、そしたら他の久瀬さんファンが買えなくなるし、久瀬さんのことを知らない人が買ったら、そのインタビュー読んで、また一人ファンが増えるかもしれないし。
「遅咲きの小説家、苦労を経たからこそ、今、書けるもの――って、美化しすぎだろ」
「そんなこと、ないよ」
「五冊買ってどうすんの?」
「えっと、一冊は保存用で、もう一冊は保存用の予備で、あとっ……ン」
あとの三冊は読む用。読んでるうちに、ボロボロになっちゃうかもしれないから。けど、ボロボロになったからって捨てたりはしない。ちゃんと取って置く。
「ぁっ……久瀬、さんっ」
背中を丸めて、俺の首筋に唇だけ寄せてキスをくれる。久瀬さんの長い黒髪がその大きな肩を音もなく滑って、綺麗でドキドキした。寝起きだから、かな。髪、しばってなくて、ドキドキする。夜、俺を抱く時もしばってないから。
「ったく、お前、今日、仕事がオフだから、こっちは楽しみにしてたのに」
「ンっ」
最近、執筆以外にも忙しくて。忙しいのは嬉しいことなのに。でも、少しだけ、不安になったりする。
「あっ……ン」
「朝から、イチャイチャしようと思ってたのに」
人気になって欲しいけど、あんまり人気になりすぎたら、なんか遠くにいっちゃいそうで。
我儘なんだってわかってる。でも――。
「ぁ、久瀬さんっ」
「何? これ」
「あぁっ!」
「柔らかいけど?」
でも、独り占めもしたいんだ。
「あ、だって、俺、今日、オフ、だからっ」
下着ごとズリ下ろされたズボン。首筋のキス一つで反応してた。
「オフだから?」
「ん、ぁっ……」
「やらしいな、うちの愛猫は」
「あっあぁぁっン」
その反応して勃ってたペニスの切っ先を久瀬さんの骨っぽい大きな手が包み込んで、イイコイイコってしてくれる。気持ち良くて、朝なのに、まだ普通の本屋は開店もしていない時間なのに、甘ったるい猫撫で声が零れ落ちそうで、手の甲で口に蓋をした。
「本屋行って、パン屋に行ったのか? ここ、こんな柔らかい孔にしてから?」
「う、ン」
だって、そしたら、すぐに抱いてもらえるかもしれない。起きた時、貴方が許してくれるなら、上に乗っからせてもらえるかもしれない。
「クロ……」
「ぁ、あっ、ぁっ」
部屋には燦燦と朝の眩しい日差しが降り注いで来てた。
「あっン、久瀬、さんっ、俺っ」
そんな爽やかな朝日の中で、壁に背中を預けて、ペニスを可愛がってもらってすごく気持ちイイのに。
「ぁっ、っ……ン、くぅ……ン」
キスが深くて、くちゅりと唾液が混ざり合う音がした。舌にしゃぶりついて、美味しいキスにまた唾液が溢れて零れそうになる。けれど、久瀬さんの舌が絡み付いて全部をすすってくれた。
「ンっ」
欲しいよ。早く、久瀬さんの太いの。
「舐めて、クロ」
「ンっ」
キスをやめられてしまって、残念そうに、名残惜しそうに、まるで雛鳥みたいに口を開けたら、指をくれた。
「ン、んんんんっ、ンっ、んくっ」
久瀬さんの指、好き。この指で、あんな甘い恋のお話を紡ぐ、俺の宝物の指先。その指を丁寧に舐めた。きつく頬を窄めて、はしたない音がするくらいに丁寧に濡らして。
「ったく」
「ン、ぁ……んんっ」
その濡れた指に乳首を抓られるの、たまらない。
「あっ、ぁっ……久瀬、さんっ」
「クロ」
「ンんっ」
その濡れた指に。
「あ、あ、あぁっ」
「っ」
朝、ほぐして柔らかくなった孔を濡らしてもらって。大きな手に壁に手を付けって促されて、それで。
「あ、あっ、あぁぁぁぁぁあっ」
そこを久瀬さんのペニスで抉じ開けられるのが、たまらなく、好き。挿れられただけで射精する。
「あっ、ンっ、久瀬、さっ」
もっとして欲しくて、背中を反らせて、奥に来るのを手伝った。
「あ、はぁっ」
甘い溜め息を零しながら、久瀬さんの太さを噛み締めて、孔のとこをきゅんきゅんさせながら。
「あ、久瀬さんっ」
「クロ、こっち向け」
「ン、んん」
首を捻って舌を出した。
「クロ……」
「ぁっ」
キスしながら後ろからたくさん突かれて、ペニスも可愛がられて、夢中になって抱いてもらった。たくさん、たくさん抱いてもらって。
「ぁ、あっ、久瀬さん」
焼き立てのウインナーロールは結局温めなおして食べることにした。
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