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無口な猫編 6 鈴が鳴るように
「あっ……」
声、出た。
「ぁ、久瀬、さんっ」
俺の声が、出た。
「俺、声が」
「喉、おかしくないか?」
「う……ん、全然、普通……」
三日も本当に何も音どころか溜め息一つも出なかった、音が消えたみたいになってた。それが、今、こうして声が出せるようになって、違和感の一つや二つありそうなものなのに。痛みも何もない。普通にいつもみたいに声が出る。
これって、一体――。
「ったく」
「久瀬、さん」
喉を、本物の猫を可愛がるようにくすぐられて、自然と目を閉じた。
「心配かけやがって」
「ごめんなさい」
「お前なぁ……」
久瀬さんの声だ。優しくて、低くて、耳に染み込むように馴染む声。
「普通、声が突然出なくなったら焦るだろうが。それを、別に……みたいな涼しい顔しやがって」
別に涼しい顔なんてしてないよ。ただ突然出なくなって、本当に全く声そのものが消えたみたいになってたから、あがきようがなかっただけで。
「声なんて出なくてもいい、って面すんな」
「……」
「こっちは、ゾッとしたんだぞ」
「ごめんなさい」
本当に?
けっこう飄々としてた。まぁゆっくりしろってことだろって、普通の感じだった。でも、あれは飄々としていたわけでも、普通にしていたわけでもなくて、そう繕ってくれていた?
「こら、三日ぶりにお前の声が聞けたんだ。もっとしゃべれよ」
しばらく聞けてなかったんだから、もっとたくさん声を聞かせろって、なんでもいいから話せって急かされる。それがたまらなく嬉しい。
「あの……なんで、久瀬さんも声」
「そりゃ」
普通に声出てる。本当に久瀬さんはただ声を出さなかっただけ。ゲームって、言ってたけど。
「お前が俺を呼ぶ声、気に入ってんのに、お前は声出なくてもいいって顔するから拗ねたんだ」
「……」
「ただそれだけだ」
ただそれだけ、なの? 声、出さなかったのって。
「……ぁ」
俺は久瀬さんが「クロ」って俺のことを呼んでくれるのがとても好きだ。鈴を鳴らして踊るように飛び跳ねて主のもとへと駆けていく猫みたいに、名前を呼ばれると飛びつきたくなる。
貴方に名前を呼ばれるのがすごく好き。
貴方の声がたまらなく、好き。
俺は、貴方の声にイかされる。
「久瀬さんって、俺が呼ぶの、気に入ってる?」
「あぁ」
じゃあ、一緒だ。俺も、好きだから。
「じゃ……あ」
俺は、貴方の声でイける。
「もっと、呼んでも、いい?」
「……あぁ」
貴方の声は気持ち良くて、だから、きっと俺はたくさん、イけるよ。
全裸で四つん這いになった俺は、はしたないくらいに脚を広げて、尻を高く掲げた。
「っ、ン、久瀬、さんっ」
久瀬さんの長い指は俺の指じゃ届かないところを突付いて、骨っぽく力強く、けれど優しく、二本の指で孔を広げてくれる。太くて硬い久瀬さんのペニスが入るようにって。くちゅくちゅってやらしい音を立ててローションを孔のところで掻き混ぜてもらいながら。たまにいじってくれる前立腺を自分からも擦り付けて。
「あぁっ……」
啼いて、背中を反らせて悦がった。
「久瀬さんっ」
振り返ると、熱っぽい視線を向けて、俺の主が喉を鳴らしてくれた。
「ね、久瀬さん」
「どうした?」
しばらく、その熱を孕んだ表情に見惚れた。今、俺がこの人にあんな顔をさせてるんだって、嬉しくて、じっと見てた。
「俺、うるさく、ない?」
「何が?」
「久瀬さん、うるさいの、好きじゃないでしょ?」
「なんだそれ?」
「アキさんが……」
そう言ってた。うるさいの好きじゃないって。
「だから、無口で、クールな俺が気に入ってるって」
話しながら、くちゅりくちゅりって甘い音を立てて指に孔が柔らかくほぐされていく。もう充分、そこは久瀬さんのことを欲しがってるでしょ? きっと、俺の中は今、しゃぶりつくように長い指に甘えてる。貴方のことを考えながら自分ですると、いつも、そこが欲しがりになってたから、わかるんだ。
「気に入ってるよ」
「……」
「お前の、無口どころか、おしゃべりなとこ」
「……え?」
「可愛くて、気に入ってる」
「あっンっ」
指をゆっくり、内側を広げるようにしながら抜かれて鼻にかかった甘えた声が零れた。
「欲しがりで」
「ぁっ」
孔に押し付けられたのは指じゃなくて、もっと太くてもっと熱くて、もっと硬い久瀬さんの。
「気に入ってる」
「あっ……ぁ、久瀬さんっ、お願、イッ、早くっ」
言えば、くれる? ねぇ、久瀬さん。
また振り返ったら、目を細めて、汗が滲んだ表情をクシャリとさせて笑った。その色っぽい笑顔に、中がもっと疼く。
「ぁ、久瀬さんの、太いの、欲しい」
「指じゃなくて?」
「ち、がっ……ぁ、ください」
自分で、尻を両手で割り開く。ヒクつく孔を見せ付ける。
「久瀬さんの、硬いの、を、ここに欲し、っ」
貴方のことを欲しがる身体を晒し、刺し貫かれて、堪えきれずに射精した。
「あっあ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ」
「っ、クロ」
「あぁあぁっ!」
太くて、硬くて、気持ち良くてたまらない。
「ぁ、ぁっ、久瀬さんっ、の、嬉しい、ぁ、あっ、俺、イったばっか、なのにっ」
「クロ」
「また、あぁぁぁっ」
また小さくだけれど、イってしまう。久瀬さんに名前を呼ばれながら、お互いにしゃべらなかった間、トントンって突付かれた肩のところに歯を立てられて、また、射精した。
「あっンっ」
だってそこをトントンってされる度に、ドキドキしてた。
「あっ、ン、久瀬さんっ」
「もっと呼べよ」
「あ、久瀬、さんっ」
「もっと」
「あぁぁっン、そこ、好き、またイっちゃう久瀬さんっ」
「クロ」
ただ呼ばれただけなのに、いつも貴方の指先にゾクゾクしてた。
「あ、あっ」
「ずっと甘イキ? クロ」
「ぁ、だって」
後ろから突きながら、覆い被さった久瀬さんが耳にキスをする。腰を鷲掴みにして、ペニスで奥まで何度も無慈悲なくらいに肌を鳴らしながら突いて、擦って。甘い声で耳元で俺のことを呼ぶから。
「クロ」
「あぁぁぁぁ!」
もっと呼んで。
「あっ」
「可愛い顔、しやがって」
俺、久瀬さんに名前呼ばれるの、たまらなく気持ちイイから。
「あぁ!」
「クロ」
「ン、久瀬さん、もっとして」
ペニスで奥まで可愛がってって、自分からも久瀬さんの下で、名前を呼んで「もっともっと」ってねだりながら、腰を揺らして乱れていった。
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