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猫先輩編 1 いじわる主
さて、今日は我が愛猫、クロとの夜の様子を紹介しよう。
「はっ?」
思わず、声が出ちゃったじゃん。もう、びっくりさせないでよ。
久瀬さんが愛猫との生活を綴ったコラムが連載されている雑誌の最新号が今日発売だったんだ。結構人気らしくて、今日もこのコラムのことで編集部へと打ち合わせに向かってる。
俺は仕事を終えて、一人でうちで留守番。
これを読むのが楽しみで楽しみで、帰りの自転車がいつもよりも速くなって、十一分も職場からうちまでのタイムが縮んだ。
発売日当日に必ず、クライミングの職場に向かう途中のコンビニで朝一番に二冊買っている雑誌。一冊は読むよう、もう一冊は保存用だ。そして、その読む用のはずなのにいつも大事にそっと折ったりしてしまわないように扱っているそれを握り締めてしまったくらいに驚いた。
愛猫クロとの夜の様子なんて言うから。
――クロとは毎日ベッドで一緒に寝ているのだが。寝顔がたまらなく可愛いのだ。なんとも言えない優しい気持ちになれる。
なんか、すごく照れ臭いよ。
――夏でもくっついて寝たがるクロだが。冬はもっとくっついてきてくれる。寒がりなんだろうか。まぁ、猫なのだから寒がりか。
そんなに寒がり、って自覚したことはないんだけど。
――頭を預け、すやすやと眠る様子はまさに癒し。
え、本当に? 俺、寝相悪くないかな。寝てるから気がついてないけど、貴方のこと蹴ってしまったりしていない?
――ただ、驚いたことが一つある。
えっ! 何?
――猫も寝言を言うのだ。
変なこと、言ってないよね?
――先日のことだった。ミャウミャウとあどけない声を出して、何か木登りでもしてるのだろうか、手を伸ばし、指先を私の服に引っ掛けてくるのだ。どうやら登る夢でも見ているらしい。
「それ、実際にはミャウミャウじゃなくて、俺の名前を呼んでたな」
「! 久瀬さん!」
「ただいま」
夢中になって読んでて気がつかなかった。髪を束ね、秋色のカーディガンを着た久瀬さんがくすりと笑った顔が西向きの窓からいっぱいに降り注ぐ夕日に照らされてる。
「遅かったね」
確か編集部との打ち合わせはお昼過ぎで終わるって言ってたのに。
「んー、まぁな。それ、熱心に読んでくれてたな」
「そりゃ、ファンだもの」
目を細め、優しく笑うと、頬にキスをくれた。少しだけ、日差しのせいだけでなく、顔が赤い気がする。ほんのりと久瀬さんの頬が、赤くて。
「それに、このコラム、久瀬さんのことが書いてあるから」
「……」
綴られてるのは愛猫の様子だけれど。
「だから、好き」
それはつまり、愛猫を見つめる久瀬さんのことが綴られてるのと同じだ。
――その様子がたまらなく愛らしくて、一晩中眺めていたいと思ったほどだ。
ほら、やっぱり、久瀬さんの頬が赤い。
「久瀬さん……」
照れている久瀬さんが愛しくて、恋しくて、愛猫である俺は、指先をその秋色をしたカーディガンに引っ掛けると腕を伸ばし、引き寄せて、甘い声で主を呼びながらその唇にキスを――。
「なぁ、クロ」
「?」
キスをしようとしたら、言葉で遮られ、ソファに座った久瀬さんの上に座らされた。本物の猫よりもずっと重くて大きな俺を抱きかかえた久瀬さんの黒髪が差し込む西日で陽の色に染まってる。
「お前は一生、俺の愛猫だ」
「? 何、急に」
「俺の一番大切なものはいつだってお前だ」
「何、ねぇ」
「だから、許してくれ」
「な、何? 久瀬さん?」
「浮気は――」
心臓、止まるかと思った。浮気、なんて言うから。
「あ、あ、っん」
「クロ」
許してくれ、なんて言うから。
心臓、壊れるかと思った。
「可愛いな」
「やぁぁあっ」
西日がだいぶ傾いて、部屋の中が急に暗くなってきた。
俺たちはすぐそこにあるベッドではなく、隣のソファに座った久瀬さんに跨って、セックス してる。
買ってきた雑誌、放り出しちゃったじゃん。角が少し折れちゃった。
腰を鷲掴みにされて、根元まで入れてもらうと気持ち良くて、背中をしならせて喘いでしまう。
もっと貫かれていたくて、腰を揺らしてしまう。
貴方が、浮気とか、許してくれとか言うからだ。
「あ、あ、あ、そこ」
「クロ」
コラムがとても好評で、今度、ご自宅のクロの写真などを掲載できないかって、そう言う打ち合わせだったんだって。それで、アキさんの知人から黒猫をしばらく預からせて欲しいと頼んでいて遅くなったって。
「あんまりそんなきつく締め付けるなよ。イッちまう」
「あ、ン、知らないっ」
うちにもう一匹黒猫が増えるけれど、許してくれと、浮気ではないんだと、俺をからかったりする久瀬さんが悪いんだ。
「あぁあっ!」
腰を引き寄せられて、奥を深く貫かれながら、可愛がられたがりな乳首にキスをされて、イッてしまいそうになる。
「あ、ンン……久瀬さんっ」
くちゅりと繋がったところから濡れた音をさせながら、甘い声を上げて鳴いて。
「焦ったか?」
「ん、もうっ!」
「中が今日は特別欲しがりだな」
「ンンっ、だって」
久瀬さんがそうさせたんだ。俺のことびっくりさせて、一瞬、脅かしたりするから。身体が慌てて貴方にしゃぶりついてしまう。ヤダヤダと欲しがって、中を締め付けてしまう。
「久瀬さんがっ」
「すげぇ、気持ち良いよ」
「あ、ぁっ……そこ、深いとこっ」
奥を貫かれた快感に身悶えながら、主の背中に爪を立てる。
「クロ」
「あ、あ、あっ……ん、あぁ、ンン」
気持ち良くてたまらない。
「あぁっ……久瀬さんっ、あっ」
久瀬さんの歯で乳首を齧られて、久瀬さんので、身体の奥を抉じ開けられて、震えてしまうくらいに気持ち良い。
「クロ」
切なげに表情を歪めながら、俺のことを貫いて、ソファからずり落ちそうになるくらいに激しく奥を可愛がられると、たまらないんだ。奥が貴方のことを欲しがって、いやらしくその口を窄めてしゃぶりついてしまう。
「あ、あっ……それ、ダメ」
「ダメじゃないだろ? お前の好きなとこだ」
「あぁぁぁ」
前立腺を久瀬さんに擦りあげられて、また鳴いた。
「あ、あ、それ、ダメってば」
「ダメ、じゃないだろ」
やっぱり照れ臭いんだ。そうでしょ? だって。
「クロ」
「あ、あ、あ、あ、あっ、ダメって、ば、あ、イクっ、そこ、したら、イクっ」
「あぁ、俺も」
今日の久瀬さんは少し意地悪に俺のことを攻めて、浮気とか嘯いては俺を驚かせたりして。
「あ、あ、イクっ、久瀬さんっ、も、イッ……あ、あ、あぁぁあ!」
そして誤魔化すんだ。コラムの中でとても溺愛しているとその黒猫本人に読まれたことが照れ臭くて、赤い頬を隠すように俺を抱いていた。
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