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第22話 side A
「今日も疲れた…」
神宮寺瑛はそう小さく呟きながら職員玄関を出ると、外がかなり寒くて身を震わせた。
(もう11月だし…コート着てきて良かった…)
瑛の仕事は秘書兼運転手のようなもので、業務中はリムジンを運転することも多く、幾ら痩せ型とはいえ、最近は健康のためを考えて、最寄りの駅ではなく、40分程離れた駅まで歩いて電車通勤を始めたのだ。
(宗栄様…今日も疲れていたようだったな……
疲れがなかなか取れないようだし、何か俺にできることはないかな…?)
ゆっくりと歩きながら、今年65歳を迎えた上司であり、今や総合病院の院長である檜山宗栄(ひやま そうえい)について考える。
そもそも瑛が秘書兼檜山家の執事として仕え始めたのは25歳の時で、既に21年仕えていることになる。
仕え始めた時、宗栄は44歳で宗一郎は11歳だった。
宗一郎は長男として何でもかんでも完璧にこなそうとしていたが、失敗することも多々あり、兄弟のような感覚で注意した事がついこの間のことのようで、歩きながら少し笑ってしまった。
(そういえば、前に宗一郎が病院に連れてきた子は大丈夫だったのか…?)
綺麗な顔立ちで中学生にしか見えない高校生のことを何故かふと思い出した。
(あれは…3週間くらい前か?
確かあの日、宗一郎は非番で適当に出かけると言っていたから、まさか呼び出されることになるとは思っていなかったし…あんな優しい顔をした宗一郎を見たことなんてなかったから少し驚いたな…)
と考えていると、お腹がぐぅぅと鳴る
周りを歩く人に聞こえていないか少し焦るが、幸い人通りは少なく、誰も聞いている人は居ないようだ。
(よし!今日は給料日だし、少しくらい外食してもいいよな?)
と、駅の近くの行きつけの小さな居酒屋へと入ろうとした。
すると、居酒屋とビルの間で小さな塊が丸まっていることに気がつく。
(人…か……?)
「おーい?大丈夫ですか?」
よく近づいてみると、漂う精液と血液のまざった臭いと、裸足とパーカー1枚という服装に気が付いた
「えっ、だ、大丈夫ですか!!!?」
と駆け寄り、揺さぶると身体がかなり冷たい。
しかも顔を見ると、かなり顔色が悪いが、今日宗一郎が連れてきたあの子だった。
「と、取り敢えず救急車!!!」
と自分の着ていたコートを被せ、スマホを取り出すと、119番に電話をかける
「もしもし!救急です。○○区の××の辺りで人が倒れていまして…はい、そうです…はい、体が冷えているだけで、呼吸も心拍も正常です。はい、分かりました。」
と救急車の手配が終わり、その子を集まってきた人に任せると、瑛は宗一郎に電話をかけた
プルルルルルルルル、プルルルルルルルル、プルルルルルルルル…
「もしもし!宗一郎!!?」
『おう、瑛か?どうした?』
「あの子が、宗一郎が前に連れてきた子が××の辺りで倒れてて、」
『朔久がか!!?』
「あ!そうそう!その子!!」
『分かった、今行く。』
「あ、いや、すぐに救急車が来るみたいだし、今日のこの地区の夜間はうちの病院だから病院で待ってた方がいいかも。
救急車には俺が乗っていくからさ。」
『いや、今ちょうど近くにいるんだ。走れば2~3分で着く』
「分かった。なるべく早く来いよ。」
と言うと、電話は既に切れていた。
急いで朔久の元へと戻り、居酒屋の店主に説明をして、身体を抱き抱えて中へと入れる。
(軽い……この子本当に高校生なのか…!!?)
身体を急激に温め過ぎないよう、入口で身体を擦りながら瑛は
(宗一郎…早く来い…!!!!!)
と願った。
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