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第25話 てのひら

救急車に乗ると、あっという間に心電図が取り付けられたが波形に異常はなく、自発呼吸もしっかりと出来ていた為、少し安心する (よかった……この分には命は助かりそうだな…) と、今まで張り詰めていた息を吐き出すと、ようやく朔久の服装がおかしいことに気が付いた。 (こんな寒い日に大きなパーカー1枚?) さらに、身体をまじまじと見ると、カピカピになった精液のようなものや、血液が身体中についていることが分かる。 (暴力だけじゃないというのか…!?) 憎い 朔久をこんな風に扱っているやつが憎い どうしたらこんな扱いができるんだ どうして朔久が どうして 考えれば考えるほど憎らしくなり、ムカムカとしてくる 「くっそ………」 膝の上でぎゅっと握りしめた拳は、力を込めたせいで白くなり、爪が掌に食い込んだ。 精神科医だというのに、朔久ひとりの闇でさえ聞き出すことも出来ず、こうなってしまう前に救えなかった自分が嫌になる。 掌にうっすらと血が滲み、その様子に気がついた救急救命士から 「あなたも医師なんですよね? この位、呼吸も心拍も安定していれば大丈夫ですから。落ち着いてください。」 と言われ、やっと少し正気に戻った。 「……はい」

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