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第30話 櫻井先生の記憶

カタカタカタ… 電子カルテに朔久くんの情報を書き込む (虐待…ねぇ…) あの小さな身体には幾つもの傷や痣があったことを思い出し、胸がもやっとする 「……よし、終わり!」 暫くパソコンと向き合っていたせいか、身体が痛い。 「んーっ」 両腕を上に伸ばして背筋を伸ばし、ため息をついて首を回すとゴキゴキという音が鳴る (ちょっと見回りがてらに散歩でもしてこようかな…) と、椅子から立ち上がるとゆっくりと足を動かした 夜の院内を歩くのは案外悪くない 消毒液の匂いがする静まり返った廊下を月明かりが静かに照らし、考え事をするには最適だ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『お前なんて死ねば…』 『産むんじゃなかった!!!!』 『あんたいつ死ぬの?』 ………… …… … 遠い、遠い記憶 ばくばくと早くなる動悸がやけに大きく聞こえる 1度立ち止まって眉間に手を当てて 「ふぅ…」と、深く深呼吸をする (もう…大丈夫。 宗臣がいるから、僕はひとりじゃない。) と、愛しい恋人のことを思い出すと、リラックスして口角が自然と上がった。

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