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エリー

悲しみよ、さようなら。 悲しみよ、こんにちは。 君は天井の線の間に刻まれている 君は私の愛する瞳の中にも刻まれている 君はまったく惨めではない なぜならもっとも貧しいひとたちでさえ君を呼ぶ 微笑みながら。 悲しみよ、こんにちは。 (エリュアール「形のない痛み」より私訳)  トーマスが、私の元に帰ってきた!  それは、信じられない瞬間だった、また幼い頃の夢を見ているのではないかと思うほど。  ヨークにある薄汚いアパートの一室で、彼の力強い腕は私を求めた。後悔がないと言ったら嘘になる。しかし、私の生活にとって、彼の存在ほど必要なものはないのだから。 「あんたの元で、告白を」  私を抱き寄せたまま、彼は囁いた。 「俺があんたを見捨てていったのを、あんたはまだ怒っているでしょうね?」  彼にすがりつきながら、私は頷いた。 「あのあと、僕がどうなったと思っているの?」  冗談めかして彼の指に噛み付く。彼はそのまま私の顎を引き寄せた。 「あんたが言ったように……まだ、戻れると思ったんです」 「僕たちが出会っていない、そんな昔に? それは無理だよ。君がそう言ったんじゃないか」  そう言いながら、都合のいいものだと思う。彼に終焉を宣告したのは、他でもないこの私だったのだから。だがあの時は、私もそう信じたのだ。何もなかったことにすることが、家族も私も傷つけない、唯一の解決法だと! 「俺だって、常にそう思っていたばかりでもありません。だけど、どうしていいのかわからないのです、一秒ごとに決心が揺らいで。素晴らしいアイデアに思えたものが、次の瞬間にはただの伽藍に見え、また次の瞬間には究極の結末に見え……でも、今は幸福です。あんたをこんなに堕落させたというのに。気持ち悪いほどに、何の不安も、後悔も。俺の元にはありません。たぶん、幸福すぎて他の感覚が麻痺しているのだと思います」  彼の指が私の素肌に触れた。愛しすぎて、気が遠くなりそうだ。 「幸福すぎて、麻痺。素敵な言葉だ。僕を、もっと堕落させて」 「エリー」  私に接吻をすると、かすかな憤りを含んだ声でトーマスは言った。 「あんまり、俺だけのせいにしないでください」  黒い目で見つめられて、私の心臓は躍った。ああ、やっぱり変わっていない。私の心は、初めて出会った時のまま。 「ああトーマス。僕は、君が好き。初めて会った時から、どうしようもなく。君のせいじゃない」  私たちはもう一度口づけを交わした。ああ、私の愛する人が私に囁く。 「エリー、俺もだよ」  都市の夜は静かに更けてゆく。隣には愛する男。その腕に抱かれながら私はずっと考えていた。今考えるべきでないことは、重々承知だ。それでも、考えずにはいられない。  太陽と月と神に背いて、私の辿り着くところは、いったいどこなのだろう、と。 fin.

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