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出会いと不要な温かさ 05歩
ゴクンと一口口に入れると、広がる温かい甘さ。
「…おいしい」
僕がそう言うとお兄さんは「そうか」と言って、少し笑った。
お兄さんの作ったココアは甘くて温かかった。僕の心まで温めてくれた気がした。
僕の心は直ぐに冷めてしまうけど、それでも一時の心の温もりを感じたかった。
飲み終わる頃には、体の震えは収まっていた。
「…ごちそうさま、でした」
お兄さんは僕の飲み終わったマグカップをキッチンに持っていった。
「お粗末様でした。大丈夫か?」
「はい…。迷惑かけてしまってごめんなさい」
僕は自分の頭を自分で撫でた。こうでもしないと頑張れないから。
「迷惑じゃないから大丈夫だ。俺は今から仕事だから出て行くけど、お前は落ち着いてから帰るといい。鍵はポストに入れておいてくれればいい」
そう言われ時計を見てみると7時だった。
今日は一限目から講義だから急いで帰らないといけない。
そもそも知らない人の家に居座るのは気が引ける。
「僕、大学行かないといけないので、もう帰ります…」
「じゃあ、一緒に出るか。荷物はそこに置いてあるから」
「はい」
返事をすると「いい子だな」と頭を撫でてくれた。
この年になっても頭を撫でられるのは嬉しいと感じる。いつも自分でしか撫でられないから。
だからもっと撫でて欲しいと思ったけど、嫌われ者の僕なんかが烏滸がましいことは出来ないから諦めて、お兄さんが撫でてくれたところを自分で撫で直した。
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