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出会いと不要な温かさ 07歩
お兄さんは、ふっと笑いもう一度僕の頭を撫でた。
「何でだろうな。まあ大人しく撫でられとけ」
「…ありがとうございます」
「別にいいよ。あ、ちょっと待ってな」
お兄さんは仕事用の鞄を開けてペンと名刺を出すと、名刺に何かを書き、僕に渡してきた。
僕はよく分からず受け取り、名刺を見ると、楢崎 侑李(ならさき ゆうり)と名前が書いてあった。
そして裏にはメールアドレスと電話番号が書いてあった。
「…楢崎さん」
「いつでも連絡してこい」
「…ありがとうございます」
「どういたしまして。この道真っ直ぐ行ったら、昨日お前がいた公園がある。じゃあ俺はこっちだから、またな」
お兄さん…楢崎さんはそう言って僕の返事を聞かず去っていった。
「いい人だったな」
でも僕は連絡しない。温かさを覚えたら、駄目になってしまう。
死ねないのに死にたくてしょうがなくなる。
相手は連絡先を知らないんだから、僕から連絡しなかったら繋がらなくて済む。
そう思っているのに僕は貰った名刺を大事に手帳に挟んだ。
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