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22.About him
「……特性。そうだ………それが、まだだったな…」
「え?」
日が傾きかけた頃に森を抜けた一行は、延々と続く草原を歩き、再び森に入った所でテントを張った。
夕飯は、先ほどノーラッドが狩ってきた銀小鹿 の肉と木の実。
こんがりと焼き色がついた肉に塩を軽くまぶし、むしゃぶりついている所への唐突な言葉だった。
「特性? なにそれ」
「あぁ…まだ説明していなかったか。
特性ってのは使徒がそれぞれ持つ魔力とは違う特別な能力のことだ。ほとんどの場合、特性が己の持っている魔力を助長させる…いわばドーピングみたいなもんだ。基本的に1人に1つと言われている。………例外もいるけどな」
「へぇ………改めて思うけど…使徒って凄いんだね…」
指の先についた肉汁をペロペロと舐めながら感心の声をもらす。
その隣ではルークが自分の倍はあろうかという肉の塊にかぶりついており、なんともいえないような幸せそうな表情を浮かべていた。
「ノーラッドは?」
「…俺か。……さっき、例外もいると言ったな」
「特性のこと? うん」
「それが俺だ」
「…?」
説明してやる、と立ち上がるノーラッド。すっかり食べ終えた銀小鹿 の骨を地面に置き、木の実を片手にもつ。
「1つは今見せられないが、もう1つの方なら見せられる。ダグラナ、この木の実を持ってどこかに隠れろ」
そう言ってノーラッドは手にしていた木の実をダグラナに手渡す。近くの落ち葉を拾うと、それを目隠しへと変化させ、自分の目を塞いだ。
ノーラッドの〈創造〉 の魔力だ。
「…何してるの? 隠れるって…だって、……ノーラッド目は…」
「大丈夫だから。早くどこかに隠れろ」
足音立てるなよ、と最後に付け足され、手の甲を振る。
少し離れた木の陰に隠れたダグラナ。そこにリリマがやってきた。耳を貸せ、と仕草で示している。
「木の実、ノーラッドに投げてみなさいな」
「……?!」
「だぁいじょうぶよ。…いい? 思いっきりよ」
何を言い出すのかと思えば。
木の実を、ノーラッドに。……投げる。…なぜ。
ノーラッドは今目隠しをしていて、ダグラナの方に背を向けている。
今、木の実を投げたらノーラッドに当たっちゃうじゃないか…。
(しかもこの木の実ってハシュの実でしょ?そう硬くないから当たったらベチャッてなるじゃないか…!)
「1…2の…それっ」
「……~~っ、知らないからねっ!」
うようよと考えてる間にリリマがカウントを始めたので、それに合わせて思い切り振りかぶる。
自分でもびっくりするほどまっすぐに、その木の実はノーラッドめがけて放たれた。
(…~~っ当たる!)
ダグラナが心のうちでそう思った、その瞬間。
「……っ!」
「ほぉら言ったでしょ~~? うふふふふ♪」
目隠しをして、ダグラナに背を向けていたはずのノーラッドが、なぜか、木の実を見事にキャッチしていた。
隣で愉快そうに笑うリリマだが、とうのダグラナはまったく愉快ではない。
どうなっているのだ。
……いや。でもよく考えればノーラッドは使徒だ。鍛え上げられた肉体や、戦慣れした感じを見れば、もしかしたらこれ位普通なのかもしれない。
「絶対感知 。それが俺の持つ特性の1つだ」
いつの間に近くに来ていたノーラッドが、木の実をかじりながら未だにびっくりしているダグラナに説明をする。
「どんな状況下であろうと対象の気配を必ず感じとることができる。突発的状況下でも同じことが可能だ」
「……っご、い」
そんな、そんな能力があるだなんて。
「……は?」
最初は使徒になってしまって、村の皆と離れるのが嫌で嫌で仕方なかったのに。
「おいダグラナ、すまんが聞き取れなかった。もう1度………」
かっこよすぎるじゃないか…………っ!!!
「すっっ………ごい!!!! かっこいい!!」
「!」
「やっぱりすごいよ、本当にかっこいい! 僕、使徒になってよかった!」
「ダグラナ…」
苦しそうに表情を歪めたノーラッドには目もくれず。
「ノーラッド、ありがとう!!!!」
「…っ、………お、俺に礼なんてわけわかんねぇやつだな、お前」
あなたはなんて残酷なの、ダグラナ。
これから先、真実を知っても、アナタは本当にそれを言ってられるのかしら………? ダグラナ…。
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