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第36話
行きたい場所をずっと考えながら
寝癖やら服やらを整えて準備が出来た頃、
司も残っていた仕事を丁度終わらせたようで
リビングに戻ってきた。
しかし…行き先を決める前に
問題がまた1つ増えた。
それは司に用意してもらった服…
司は普段からお洒落だからわかってはいたけど…こんなお洒落な服僕に着せられたって似合わない。
「ねえ…司。この服…僕には似合わないよ」
「何言ってんだ、俺が選んだんだ。間違いはないだろ?」
「そういう事じゃなくて…僕みたいな低身長で顔もそれほど良くない人がこの服を着ていたってせっかくの服が台無しになっちゃう…」
「お前な…そこまで無自覚なのもどうかと思うぞ」
「…何が?」
「まぁ、いい。兎に角今日はそれで行け。お前に合うサイズの服がまだそんなにあるわけじゃねえんだ」
「はーい…」
まあ、服をわざわざ買って貰うのもあれだし…
着るしかないのかな。
それにせっかく用意してもらったんだから
これ以上言ったら失礼だよね。
「ほらいくぞ」
「はーい……って…うわっ!」
急に体が浮いたかと思うと見てみれば、司は僕を片手で軽々と抱き上げ玄関まで歩いていた。
「つかさっ…何?!僕歩けるよ!」
「あ?まだ傷が痛むんだろ」
「さっき転んだのはっ!たまたまだって!」
「まだ治ってないのは事実だ」
「んー…じゃあ、車まで…」
そのまま佑月と司は家を出てエレベーターへと向かう。
その際に家の入り口にいた司の護衛と思われる2人も一緒にエレベーターの中へと入る。
「お荷物お持ち致します」
「ああ」
やっぱり護衛がいるだなんて、若頭らしいけど
今日は二人でのんびりしたかったななんて思っていると司はそれに気づいたのか僕に話しかける。
「安心しろ、出かける時はこの2人を連れて行くつもりはない」
「え…?」
「若!?どういうことです?」
「今は護衛を付けなくてはいけません。長崎のことがあります」
「会長には許可を取っている。それ以上の発言は会長の意に背くと思え」
「「申し訳ありません」」
「まぁ、何があれば連絡をいれる」
「「承知いたしました」」
会長、つまり司のお父さんから許可を得ているため
護衛と少しもめていたようだったけど、結局2人でお出掛けする事になった。
司と2人でお出掛け…嬉しい。
そんな僕は司にも護衛さん方にもバレないように小さく微笑んだ。
***
「本部にいる桜庭にこの資料を届けてくれ」
「畏まりました。ではお気をつけて」
司が今回も運転してくれるようで、
僕は助手席に座り、未だに決まらない行き先を
スマホを見ながら探していた。
「で、場所は決まったのか?」
「んー。あっ!」
「どうした?」
「この海…僕ここの海に行きたい。」
「海でいいのか?」
「うん」
「なら、行くからシートベルトしろよ」
「はーい」
それから僕らは海へと向かった。
何故海を選んだか…と言われたら
正直よくわからない。
だけど、スマホの画面で海を見た時
何故だか懐かしい感じがした。
昔…もしかしたら行ったことがあるかもしれない。
お母さんの顔もお父さんの顔も忘れたわけじゃないけど
3人での遊んだ記憶とか楽しかった出来事とか…
一切思い出すことができない。
そう、僕には家族との思い出がないんだ──……
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