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第62話
「先生、ちゃんとご飯食べてますか?」
ビシッとスーツを着こなして居間に正座で座って開口一番、そう言われた。
「んー、減ったら食ってるよ」
「減ったらじゃなくて、一日三食しっかり食べてくださいよ?顔色悪いし、締め切り前でもないのにボロボロですよ」
台所で高橋の分のコーヒーを淹れて居間へ持って行く。高橋はミルクだけ入れてティースプーンでクルクルとコーヒーをかき混ぜる。
「いい小説はいい肉体から、いい肉体はいい精神からですよ!」
「俺、そんなに酷いか?」
千鶴が帰らなくなって一週間が過ぎた。
あの日から一文字も書けない日と、書きたい事がありすぎて時間を忘れる日を繰り返している。
別に締切もまだなのに、何かに急かされるみたいに書き続ける日は飯を食べるのも、風呂に入るのも忘れて没頭していた。
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