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第64話

企画案にサラリと目を通す。 いつもなら面白そうな題材があればそれを書こうと思うのだけど、企画案の内容が頭に入ってこない。 面白いとか、面白くないとか以前に、何だかよく分からない。 文字が記号みたいに見える。複雑な暗号みたいだ。 気持ち悪い。読もうとすると目が回って酔ってくる。 「吐く……」 ヤバイと思って立ち上がると目眩がして身体がフワフワした。 高橋が慌てて支えてくれたが女の力では俺の身体は支えきれそうにない。壁に手を付き高橋を置いてトイレまで何とか辿り着くと盛大に吐いた。 まともに食べてなかったせいで、吐き出したのは胃液だけだった。 口の中が気持ち悪い。 「先生、大丈夫ですか?」 トイレの前で高橋が声を掛けてくる。 こんな弱った姿を見せたくはなかった。 千鶴がいないだけで俺のバランスは完全に狂ってしまっていた。

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