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第65話

「悪い……ちょっと今日はもう帰ってくれ」 トイレの中から言うと、何かあったら連絡下さいと高橋の気の遣った声がした。 普通ならこんな状態の人間、置いて帰らないだろうけど俺がこういう姿を見せるのが嫌なタイプだと分かっている高橋はそれ以上踏み込んでこない。 そういう性格が気に入っていて担当をずっとやってもらっている。 有難い話だ。 全部吐ききった後、気持ちの悪い口の中を歯磨きをしてさっぱりさせると鏡で自分の姿を見た。 髭が伸びたまんまで髪もボサボサ。 目の下のクマはまるで死人みたいに見える。 このままじゃダメだ。 千鶴がいなけりゃ満足に生活出来ない。 俺はそこまで千鶴に寄りかかっていたんだ。 千鶴に使わせていた客間に入ると、敷いたままの布団に潜り込んだ。 微かに千鶴の匂いが残っている様な気がして目を閉じると、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。 なんだかそこに千鶴がいる気がして、久々にちゃんと眠れた。

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