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第70話

「助ける事が出来るなら、なんで今まで何もしなかったんですか」 意外、だった。 河内の口からそんな言葉が出てくるなんて。 千鶴が仕事をした方が河内だっていいはずなのに。 「俺が無理に止めても千鶴に辞める気がなかったら意味ないだろ」 実際、辞めろって言ったのに千鶴は辞めなかった。 どんな言葉も本人にその気が無ければどうにもならない。 「辞めても戻るヤツ、多いんだよな。普通に暮らす方法がわからなくてさ」 車の窓を少しだけ開けて煙を外に逃がす。 代わりに夜の匂いが車内に入ってくる。 「だから……千鶴もそうなるって分かってた」 戻っていくんだろう。 でも戻らないでほしい。 千鶴にここにいて欲しい。 年甲斐もなく若い男に惹かれて、そいつの全部を背負いたいと思った。 けれど千鶴はそれを望んでいなかった。

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