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第72話

河内の運転する車が停まったのは、とあるホテルの前だった。 少し寂れ気味のそのホテルの前で待つように河内に言ってから、車を降りた。 タバコに火をつけて、一度大きく肺に吸い込んでから携帯を取り出してホテルの中に入った。 ここには何度も来たことがある。 だからどの部屋を使っているかも知っていた。 エレベーターで最上階を目指し、一番奥の扉の前まで来ると携帯のアドレス帳から消す事の出来なかった名前を呼び出す。 三回、呼び出し音が鳴って電話の相手が低い声で『もしもし』と言った。 久しぶりに聴くその声はあの頃と変わっていない。俺はまるであの頃に戻った感覚を味わった。 「部屋の前にいるから開けろ」 それだけ言うと通話を切った。 少しして扉が開く。中から出てきたのは懐かしい顔だった。 「久々に会ったのに怖い顔だな、青柳」

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