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第73話

厳つい顔がニカッと笑った。 昔から知っているその顔が俺は心底、嫌いだった。笑っているのに目だけは死んでいるみたいな深い闇の色をしている。 「来ると思ったよ。まぁ、中入れ」 「相変わらず俺の事、監視してんのかよ」 ソイツの横を通って中に入る。 部屋の中は外観に比べると不釣り合いなくらい綺麗な造りをしている。コイツがこの部屋だけ改装させたんだ。 「そろそろ温い生活も飽きた頃だろ?」 「生憎、その温いのが楽しくてね」 ローテーブルにあった灰皿にタバコを押し付けて火を消すと、更に奥の部屋へ遠慮なく入っていく。 薄暗い照明の中にどでかく置かれたベッド。 そこに千鶴がバスローブ姿で横たわっていた。 「これからお楽しみの時間だったのに」 「俺が来るって分かってたクセによく言うよ」 悪名高いコイツに狙われたらどんな事になるなかくらい、その商売の人間は皆知っている。

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