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第76話
男なら据え膳、なんて気にはならなかった。どう見ても普段の千鶴じゃない。
こんな風に俺を誘惑する必要が千鶴にはないんだから。
「千鶴、なんか飲まされたな?」
アイツの趣味の悪さは俺が一番よく知っている。
催淫剤の類を使って行為を楽しむ事も何度もあった。量の加減を間違えて相手が酷い目にあった事だって一度や二度じゃない。
「千鶴、俺が誰かわかるか?」
「ねぇ……早く」
時間が経てば薬の効果は切れるはず。だけどそれまでずっと千鶴はこうやって誰にでも盛り続ける。
きっと生半可な薬じゃないだろう。
俺が千鶴を取り返しに来るとわかっていてわざと強いものを飲ませたに違いない。
アイツの俺への執着はネジ曲がり過ぎていて手に負えない。
だから俺はアイツのいる場所から抜け出したのに。
最悪だ。他人に関わればアイツが仕掛けてくるかもしれないのは予想出来たのに。
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