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第96話

五月の温かい朝にタオルに包まれて置かれていた。 だから皐月と名付けられた。 まだ産まれて数時間くらいだと医者が言っていたらしい。臍の緒が付いたままの状態で、これが冬なら確実に死んでいただろう、って。 俺の人生は最初から何も無い状態で始まった。 捨て子だった。恐らくは望まない妊娠をして誰にも言えずに一人で産み落とし、そこに捨てて行ったのだろうと。 顔も名前も知らない母親の最初で最後の慈悲だったのか、捨てていった場所は青柳稔(ミノル)という爺さんがやってる児童養護施設だった。 そこはそんなに大規模な施設じゃなくて、常に十五人くらいが出たり入ったりしていた。 詳しい事はよく知らないが、爺さんはどうやら家族もいない独り身で多額の財産を持て余していたらしい。 どうせなら何か役に立つ事に使おうと考えて施設を設立した爺さんは色んな事情を抱えてやって来る子供達を自分の孫のように大事にしてくれた。

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