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第152話
「皐月さんの話を聞いてたら、オレ、逃げるのやめなきゃって思った。身体売ってたら何も考える必要ないし楽だったけど、そんなんじゃずっとオレは誰も幸せに出来ないんだって」
「千鶴……」
膝枕から起き上がって、俺の方を向いた千鶴が両手で俺の頬を挟んだ。
そしてニカッと悪戯っ子みたいに笑った。
「それに皐月さん、オレがいないと生きていけないでしょ? オレね、そんな風に身体じゃなくて心を必要とされたの初めて。ホントは黙って消えようって何回も思ったけど、どうしてかな、ここに帰って来たくなるんだ」
悪戯っ子みたいな笑顔から、涙が流れていた。
それは綺麗で穢れのない、純粋な涙。
誰にも汚されずにいた千鶴の大切な感情だった。
「何度出ていっても、いつでも帰ってきていい。でも出来るならもう居なくなるな」
「……うんっ」
千鶴が嬉しそうに笑うから、俺も何だか心が暖かくなって思わず千鶴を抱きしめた。
大丈夫、何度だってやり直せるから。
だから、ここで一緒に暮らしていこう。
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