185 / 191
第185話
俺が捨てられていたのは丁度この場所だったらしい。
何の思い入れもない。だって新生児の記憶なんてないから。
インターフォンを鳴らすと中からバタバタと何人かの足音が聞こえてきた。
ゆっくりと扉が開いて、その隙間から子供達が顔を覗かせる。
「やっぱりサツキだっ!」
「やっぱり!」
サツキだ、やっぱりだ、と子供達が騒ぐ中、千鶴に目配せして一緒に中に入った。
俺が育った家。
施設は今もほかの人が引き継いで運営していた。
中は何度か古くなった箇所を直しているから、当時の面影はあまりない。
それでも匂いや、太陽の光が差し込む加減なんかを感じると懐かしくなる。
足元に群がる子供達を引き連れて職員室まで行く。
昔いた職員はもうそんなに残ってないけれど、毎年来ているから新しい職員にも顔は知られている。
そのうちの一人が似合わないエプロンを付けて近寄ってきた。
ともだちにシェアしよう!